君と恋をするための三か条


もう何度も訪れたことのある部屋に帰ってきた。デートはまた中断だ。

新は寝室に行き、戻ってくると手には小さな小箱。
丁寧にラッピングされたそれを、彼は私に手渡す。
というより、半ば強引に両手を取って握らされた。

「今日、誕生日だろ?」

そう言われてはっとする。
忘れていた。
確かに今日は、私の二十六歳の誕生日だ。
昔からあまり豪華に祝われたことはなかったから、大人になって余計に意識が薄れていたのだ。

「思い出したんだよ。一年前の今日、麗花がひとりでCocoに来て、誕生日プレート頼んでたこと。ひとり客は多いけど、そういうのってだいたい団体でしか注文入らないから、珍しいなーと思いながら俺が作った。 それはそれは楽しそうに食べてたよな」

懐かしそうに目を細められては、気恥ずかしくなる。

「誕生日おめでとう、麗花。 それで、君に折り入って頼みがあるんだけど」

新は優しく笑って、言った。

「これから先ずっと、麗花の誕生日を俺も一緒に祝わせてほしい。毎年麗花が好きなものたくさん作るよ。美味しいって言ってもらえるように、俺張り切っちゃう」

新が紡ぐ一言一句、込み上げてきそうなものをぐっと堪える。

「麗花はひとりがいいって言うかもしれないけどさ、案外二人でも楽しいと思うんだ」
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