君と恋をするための三か条
隣で男はへらへらとそんなことを言うけれど、私はエプロンをした男性の目を見つめて必死で首を横に振る。

男がそれに気づき、私の腰を思い切り寄せると、耳元で「余計なこと言うなよ」と脅すよに囁く。

態度の豹変と、全身に響く低い男の声に体が震える。
目には涙が溜まり、頭が回らなくなってくる。

すると、そのやりとりを見ていたであろう男性が一歩近づき、私と男の間に腕を伸ばしたかと思うと、私の体はふわりと浮くように動き、気づいた時には男性に支えられるようにして立ち上がっていた。

そのスピードとスマートさに呆気に取られているのは、男も同じだった。

我に返った様子で、「何するんだよ! その女を返せ!」なんて怒鳴り出す。

私を助けてくれた男性は一瞬、こちらに目配せすると、ふわりと柔らかく微笑んだ。
『大丈夫』と言われているようで、幾分か落ち着きを取り戻す。

「他のお客様に迷惑をかけ、店の秩序を乱す方は今すぐ出ていってください。そしてもう二度と、来ないでいただきたい」

「は、はあ!? なんであんたにそんなこと言われなきゃならねーんだよ! シェフ呼んでこいよ。責任者、いるんだろ!あんたみたいな若造じゃ話にならん!」
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