君と恋をするための三か条
私は彼から目が離せなかった。

一人の客を守るために、一人の客を失った。

私と男の様子に気がついただけでもすごいのに、助けてくれた。

彼にとって、それはきっと特別なことではない。
自分の店と、お客さんを守るための、ごく自然な行動だった。

けれどそれが、私の目には驚くほど眩しく見える。
どうしてだろう。この胸の高鳴りはなんなのだろう。

気づけば私は言っていた。

「私と、付き合っていただけないかしら」

「え?」

シェフの間の抜けた声。

「私、あなたとなら……」

あれ…なんだろう。まだ話したいのに、頭が回らない…?

「お客様…? え、ちょっと、おい!――」

声が遠くなっていく。
なんだか力が抜けて、急に眠く…――

ずっと冷静沈着だったシェフが慌てふためいた声で何度も私に呼びかけている。

私はその声を聞きながら、瞼の重みに耐えられず、意識を手放した。


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