流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
「まずは、莉夏の誤解をとかないとな・・・」


彼は、腕の中にいる私の後頭部をサラサラとなでた。


「『何年も前から好きな人がいる』っていうのは、いつ、誰に聞いた?」

「少し前に、副社長と上野さんが話してるところを、早川さんが聞いたって。それで私に教えてくれて」


私は顔を上げて答える。


「そう・・・か」

「あぁ、またなんだ・・・って思った」

「え?」

「どうして私は、一番大切な人になれないんだろう」


明るく言ったつもりだったけれど、一気に視界が揺れた。


「莉夏・・・いま莉夏が泣いてるのは、俺の一番大切な人になりたかったから?」


そう聞かれて、私はうなずいた。


「ね、莉夏」

「はい」

「俺の名前も呼んでくれる?」

「航・・・平」


それを聞いた彼は、私を抱く腕に力をこめた。


「莉夏、よく聞いて。俺の一番大切な人は、莉夏なんだよ」

「え?」

「莉夏が聞いた、『何年も前から好きな人がいる』っていうのは、莉夏のことなんだ」


頭が真っ白になる。


「え・・・よく分からない・・・だって、何年も前からって」

「そう・・・だよ。莉夏が副社長の秘書になる前から」

「本当?」

「莉夏が秘書になってフロアが離れて、俺はベトナムに長期出張に行って、ものすごい距離ができたけどね」

「・・・うん」

「途中、何度か諦めようとした。でも、ほんの短い時間でも顔を見る度に、触れたくて、抱き締めたくて、どうしようもなかったよ」


彼は小さく笑った。


「ずっと、莉夏だけだったんだ。俺の心の中にいたのは」

「航平・・・」

「だから、もう泣かないで。莉夏」


なだめるように、彼はやわらかいキスを繰り返す。


でも、その唇に少しずつ熱がこもるようになってきて、私は思わず吐息を漏らした。


「・・・は・・ぁ」


彼の手が、私の髪から首筋に降りてくる。

もう、戻れないと苦しまなくていいんだ。
もう、一番になれないと苦しまなくていいんだ。


「航平・・・私・・・」

「莉夏、こっち、来て」


明かりのついていない部屋に入り、彼は私をベッドに座らせた。


「もう一度言うけど、俺の一番大切な人は莉夏だから」

「うん・・・」

「莉夏に・・・触れてもいい?」


彼の眼差しに、ゾクッとした。
それくらい、強い意志が宿っていた。


彼に抱かれたい。


私は、彼の首元のネクタイをほどき、そのままシャツのボタンをはずした。

それが合図になったかのように唇を合わせ、彼の唇は、私の首筋から鎖骨へと降りていった。


「航・・平・・・は・ぁ・」

「ねぇ莉夏、もっと、触れてもいい?」

「もう聞かないで・・・航平」


私たちは、そのまま闇にとろけた。
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