流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
ふと目が覚めると、まだ夜明け前だった。

すぐ横に、ずっと私を求めてくれた人がいる。
彼の目にかかる前髪を、さらりと指で流した。


「どうした、莉夏。目が覚めた?」


彼は目を閉じたまま、そうつぶやいた。


「うん・・・ごめん、起こして」

「いや、いいよ・・・莉夏は、俺のそばじゃ眠れない?」

「ううん、そんなことない。ただ・・・」

「ただ?」


思わず、不安を口にする。
彼とこうなって嬉しいけれど、やっぱり怖かった。


「なんだかまだ夢の中にいるみたいで。目が覚めたら、やっぱり私はひとりなんじゃないか・・・って、怖くて」


私の髪に指を通しながら、彼が微笑んだ。


「ひとりが怖いなら、莉夏の気が済むまでここにいたらいいよ」

「え?」

「どこにも行かないって言ったところで、そんなの口先だけだろ? だったら目が覚めた時に、いつも俺が横にいればいいんだから」

「そうだけど・・・」


それはさすがに、私のわがままだと思った。


「何度目が覚めても、俺はここにいる。莉夏が、それを自分で確かめたらいいんだ」

「航平・・・」

「それに・・・俺も、触れられる距離に莉夏がいるのは嬉しいから」

「うん・・・」


私を気遣ってくれる優しさに、心が温かくなる。


「でも、本当は俺も莉夏と同じだよ」

「え?」

「本当は、俺もまだ信じられないんだ」

「航平・・・も?」


彼がうなずく。


「ずっと、莉夏の全てに触れたいって思ってた。だから、夢中で抱いた」

「本当?」

「そうだよ。優しくしなきゃいけないって考えてたけど、ちょっと強引だったかなって反省してる」

「そんなことない・・・優しくて・・・」

「ん? 優しくて?」

「溶けそうだった・・・」


本当にそう感じたのだ。

熱を帯びた彼の身体が重なった箇所は、じんわりと溶けてしまうような感覚に陥った。


「そんな可愛いこと言うと、もう1回したくなるだろ」

「やだ、もぅ」

「でもさ」

「ん?」

「莉夏に触れたいっていうのが叶ったら、今度は逆に怖くなった」

「え?」


彼が、少し寂しい目をした。


「だって、手に入れたら、次は失うかもしれないだろ?」

「それは嫌。もう・・・」

「もう、何?」

「もう、航平と離れたくない」


私は彼の首に両手を回し、唇を寄せた。


「莉夏、そんなことされたら、ガマンできないって・・・」


首に回した私の手をつかんだまま、彼が覆いかぶさってきた。

ふたりとも裸のまま寝ていたから、ダイレクトに彼の唇が身体に触れる。


「はぁ・・・ぁ、航・・・平」


私の声を聞いて、彼が震えた。


「莉夏、もう絶対に離さないから」


不安で冷えた肌は、彼の熱が伝わって、再び火がついたように熱くなった。


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