流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
副社長の言葉通り、俺はベトナムの合弁会社立ち上げメンバーの任を解かれ、元のIT企画部長に戻った。
そして彼女もまた、今日から部に戻ってくることになっていた。
「澤田さん、お久しぶりです。お帰りなさい」
庶務の早川さんの明るい声が響く。
「やっと戻ってこれました。早川さん、またよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
久しぶりに見た彼女の表情は、まだ秘書の顔をしていた。
「やっと帰って来たか」
席を立ち、俺も彼女に声を掛ける。
「はい、上野部長。改めて、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」
そう言って、俺は右手を差し出した。
彼女と早川さんが、不思議そうに俺を見ている。
ん? 何かおかしなことでも?
そうか、ついいつものクセで・・・。
「俺、ベトナムに長期出張してたろ? 握手するのが当たり前になってるんだよ。ごめん、今もクセになってて」
ベトナム人は、会った時に相手と握手をすることが多く、すっかりそれに慣れてしまっていた。
とはいえ、差し出した手をどうしたものか・・・。
「ま、でも、戻ってきた挨拶がわりに。嫌じゃなければ」
咄嗟に、そう取り繕った。
彼女は微笑んで、俺の手にそっと触れた。
力を入れ過ぎないように気を付けながら、彼女の手を握った。
彼女に触れたのは、あの時以来だ・・・。
そう思いつつも、もう秘書ではなくなった彼女に、上司として指示を出す。
「さっそくなんだけどさ」
「あ、はい」
「来客あるから、一緒に来てくれる? これから担当してもらう業務に関わる会社だから」
「は・・・い、すぐ準備しますね」
パタパタと持ち物を揃える彼女の横顔に、場所を伝える。
「3階の302ルームだから。よろしく」
「はい」
「澤田さん、これが澤田さんの新しい名刺で・・・こっちがゲスト用ストラップです。よろしくお願いします」
「早川さん、ありがとうございます」
ふたりの会話を横目に、俺は先にフロアを出た。
エレベーターを待っていると彼女もやって来て、同じエレベーターに乗り込んだ。
他には誰も乗っていなかったけれど、なんだか話をする感じでもなく、ガラス張りの窓から外を眺めていた。
エレベーターが4階で止まったところで、なぜか彼女が降りようとしていた。
まだ3階じゃないが、勘違いか?
降りる彼女を引き止めなければと、声を掛けるより先に、俺は手をのばす。
肩でも腕でも、触れたところで良かったのだが、ちょうどのばした先に彼女の手首があり、触れるつもりがつかんだ形になった。
その瞬間、振り返った彼女の表情は戸惑いでいっぱいに見えた。
そして彼女もまた、今日から部に戻ってくることになっていた。
「澤田さん、お久しぶりです。お帰りなさい」
庶務の早川さんの明るい声が響く。
「やっと戻ってこれました。早川さん、またよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
久しぶりに見た彼女の表情は、まだ秘書の顔をしていた。
「やっと帰って来たか」
席を立ち、俺も彼女に声を掛ける。
「はい、上野部長。改めて、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」
そう言って、俺は右手を差し出した。
彼女と早川さんが、不思議そうに俺を見ている。
ん? 何かおかしなことでも?
そうか、ついいつものクセで・・・。
「俺、ベトナムに長期出張してたろ? 握手するのが当たり前になってるんだよ。ごめん、今もクセになってて」
ベトナム人は、会った時に相手と握手をすることが多く、すっかりそれに慣れてしまっていた。
とはいえ、差し出した手をどうしたものか・・・。
「ま、でも、戻ってきた挨拶がわりに。嫌じゃなければ」
咄嗟に、そう取り繕った。
彼女は微笑んで、俺の手にそっと触れた。
力を入れ過ぎないように気を付けながら、彼女の手を握った。
彼女に触れたのは、あの時以来だ・・・。
そう思いつつも、もう秘書ではなくなった彼女に、上司として指示を出す。
「さっそくなんだけどさ」
「あ、はい」
「来客あるから、一緒に来てくれる? これから担当してもらう業務に関わる会社だから」
「は・・・い、すぐ準備しますね」
パタパタと持ち物を揃える彼女の横顔に、場所を伝える。
「3階の302ルームだから。よろしく」
「はい」
「澤田さん、これが澤田さんの新しい名刺で・・・こっちがゲスト用ストラップです。よろしくお願いします」
「早川さん、ありがとうございます」
ふたりの会話を横目に、俺は先にフロアを出た。
エレベーターを待っていると彼女もやって来て、同じエレベーターに乗り込んだ。
他には誰も乗っていなかったけれど、なんだか話をする感じでもなく、ガラス張りの窓から外を眺めていた。
エレベーターが4階で止まったところで、なぜか彼女が降りようとしていた。
まだ3階じゃないが、勘違いか?
降りる彼女を引き止めなければと、声を掛けるより先に、俺は手をのばす。
肩でも腕でも、触れたところで良かったのだが、ちょうどのばした先に彼女の手首があり、触れるつもりがつかんだ形になった。
その瞬間、振り返った彼女の表情は戸惑いでいっぱいに見えた。