流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
週が明け、彼女が秘書室から戻ってきて1ヶ月が過ぎた。

儀礼的に、面談の日程が人事から送られてくる。
上司の仕事をしないとな。


「澤田さん、今日の午後は空きある?」

「はい・・・14時と16時なら。来客でしょうか?」


いや、と遮ってパソコンでスケジュールを確認する。


「異動1ヶ月後の面談・・・じゃあ14時だな」

「どこか場所取りますか?」


彼女にそう言われたものの、堅苦しいものにしたくはなくて、別の案を提示した。


「カフェ、行くか?」

「え?」

「緊張して欲しくないから」

「・・・はい」

「じゃ、14時によろしく」

「承知しました」


何を話そうか・・・。
まぁ、人事の設定した設問通りに話すのもアリだな。


約束の15分ほど前にカフェに入った。

入ってすぐ、目の前の光景に驚く。
彼女と、先週見かけたあの男がいた。

ふたりに気付かれないように、近くの席に座る。


「莉夏」

「ん?」

「これ、莉夏にやるよ」


そう言って、男は小さな紙袋をテーブルに出した。


「午前中、客先でもらったんだ。莉夏、チョコレート好きだろ?」

「いいの? 板谷がもらったものなのに」

「いいよ。俺、これから大阪だからさ、荷物が減って助かるよ」

「ありがとう。これ食べてもう少し頑張る」


彼女の明るい声とは反対に、俺の気持ちは沈んでいくような気がした。


「大阪土産、買ってくるよ」

「え、そんないいよ。仕事なんだし」

「暗い顔してたら、何かしてやりたくなるだろ?」


男は、彼女の肩をポンと叩いて、カフェを出て行った。


「澤田さんの彼氏?」


たまらず、俺は彼女に声を掛けた。


「部長、いつからそこに?」


彼女は驚いたのか、慌てた様子で俺に聞く。


「いつから・・・ね。その白い紙袋が出てきたあたりか?」


答えに不機嫌さが滲んでいるような気がした。
大人げないことは分かっていたけれど、気持ちが抑えられなかった。


「あの、彼氏、ではないです。マーケ部にいる同期です」


違うのか・・・。
でも、そう考えているのは彼女だけなはずだ。


「彼は・・・」

「はい?」

「おそらく、ただの同期とは思ってないだろうね」

「え?」

「オトコの勘」

「それは・・・どういう・・・」

「まぁ、ひとまず彼氏じゃないならいいよ。こっち、来て」


彼女を、自分のテーブルに呼ぶ。

しばらく沈黙が続き、彼女がそれを破った。


「部長」

「なんだ?」

「申し訳ありません。何も準備できてなくて・・・」

「ん? 準備?」


何か、準備するよう指示しただろうか。


「あの、1ヶ月の成果を確認されるのでは?」


その問い掛けに、俺は腕組みをして尋ねる。


「澤田さん、もしかして俺に怒られると思ってる?」


彼女は、下を向いて目を伏せた。
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