流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
そして、申し訳なさそうに話し始めた。


「戸惑っているうちに・・・あっという間に1ヶ月が過ぎてしまって・・・進め方が良く分からなくて・・・」

「だったら」

「・・・はい」

「そう言ってくれれば良かったのに」

「え?」


顔を上げた彼女に、俺は笑いかけた。


「困ってるって、言えば良かったってこと」

「でも・・・もう新人じゃないし、自分でどうにか・・・」


そう、彼女はギリギリまで、自分でやろうとするのだ。
頼ることは、迷惑をかけることだと考えているのだろう。


「ふーん、そうかー。澤田さんには、俺は頼りない部長だと思われてるんだな」

「え?」

「それとも、冷たいヤツとか?」

「そんなこと・・・無いです」

「いや、あるね。理由はともかく、言っても意味が無いと思われてる」

「あの・・・違うんです、本当に」


彼女が慌てて弁解する。


「じゃあ、どうして?」

「・・・」

「どうして言わない?」


彼女が言葉を失う。


「さっきのアイツには言うわけでしょ? 上手くいかない・・・とかさ」

「・・・」

「まずは世間話くらいな感じで、言ってくれればいいから」

「は・・・い」

「そしたら、ちゃんと聞くし指示も出す」

「はい」

「指示は・・・さっきの彼には出せないから」

「え?」

「最初から、ちゃんと俺に言うこと」

「・・・はい」


彼女が、ホッとしたような顔をした。
俺に怒られないと、安心したからか?


「じゃあ、どこが上手くいかないのか聞こうか」


これで、少しは話してくれるようになるだろうか。



面談が終わった後、俺は猛烈な自己嫌悪に陥っていた。


どこまでが上司の発言で、どこからが私情だったのか、自分でも、もう線引きが分からなかった。

あの男を引き合いに出すことなんて、ただの嫉妬だ。


「あー、最悪だな。俺」


でも、言わずにいられなかった。
俺にできないことを、あの男は軽々とやっているのだ。

そう、『莉夏』と呼ぶことだ。

それはさすがに、上司の俺にはできない。
だから余計に、口に出さずにはいられなかった。


自分のことながら、そして、今更ながらに思った。

俺は、いつから彼女が好きなんだろうか。
彼女の何が、好きなんだろうか。


おそらく、この会社で再会したことがきっかけで、いつの間にか・・・だ。

あまり人目に触れない、彼女なりの気遣いに気付く度に、もっと彼女を知りたい、いつか彼女に触れたい、そう考えていた。

ゆっくり近づければいいと思っていたのに、あの男の出現が、俺に焦りを生んだ。


彼女を、名前を呼ばないでほしい。
彼女を、あの男に渡したくない。


その気持ちが、ただ大きくなるばかりだった。
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