流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
家に帰り、冷蔵庫から缶ビールを出して、電気も付けずにソファにもたれた。


あれから、もう7年くらい経っただろうか。


大切にしていた・・・はずなのに。

他に男がいて、そいつと結婚すると言われた。
もう、お腹に子供もいる・・・と。

最後に『退屈だった』と、言い捨てられた。


すぐに思い出せるのは、それだけだ。

記憶を辿ればもっといろいろ出てくるが、これ以上、深追いしたくなかった。


考えれば考えるほど、怖くなる。

それくらい、あの時は自分を見失った。


時間が解決してくれるかもしれないとか、仕事に打ち込めば忘れられるとか、そんなふうに考えたりもした。

でも、自信は取り戻せなかった。


そんな俺の前に、彼女が現れた。

それも、今すぐに助けないと命を落とすかもしれないという、究極のシチュエーションで。

俺は躊躇なく、彼女を後ろから抱き締めた。


そこから、何かが動き出した。

何か、ゆっくりと違う回転が始まった。


彼女は、あまりに衝撃が大きかったからか、俺のことは覚えていないようだった。

でも、それで良かった。

少し距離のある位置で、ゆっくりと想っていたかったから。


だけどいつからか。

名前を呼びたいとか、触れたいという衝動が湧いてきたし、彼女の近くにいる他の男を、疎ましいと感じるようになった。


これ以上気持ちが強くなれば、手に触れるだけでは済まない。


「流れに任せる・・・」


それでいい気がした。


「ダメなら、ベトナムに永久に飛ばしてもらうか」


そう自嘲して、缶に残ったビールを飲み干した。


翌朝、出社するとすぐに秘書室長から電話が掛かってきた。

何事かと尋ねると、今日から、それも朝から澤田さんを秘書に戻すと言われ、俺はすぐに電話を切って副社長室に向かった。


「ほんと勘弁してくださいよ、またですか?」

「うるさいやつだな。しょうがないだろ、他に頼みたい人がいないんだよ」


聞けば、新しい秘書が実家の都合で1週間休むことになったらしく、引き継ぎもままならないから、もう彼女しか選択肢が無いのだと言う。


「・・・だからって。今度はどのぐらいなんですか? 俺もう耐えられないですよ」


自分で口にして思った。
耐え・・・られない?
俺は、何に耐えられないんだ?


ハッとした。

彼女が、自分の視界からいなくなるのはもう嫌だった。


彼女の真面目な顔も、微笑む顔も、疲れのにじむ顔でさえ、近くで見ていたいのだ。

それを、一瞬で取り上げられるような気がして・・・。


「おっと、社長から電話だ。とにかく、しばらく我慢しろ」


もう埒があかないと嫌がらせのような大きなため息をつき、俺は副社長室のドアを開けた。


え?


「おはようございます、部長」


微笑む彼女が、そこにいた。
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