流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
俺が調整した副社長への来客があり、副社長室に向かった。

ふと、彼女の声が聞こえた気がして、役員室と反対側の廊下の方に振り返る。


「板谷、お土産ありがとうね」

「うん」


あいつか・・・。


「板谷、今度また同期で飲もうよ」

「そうだな。声、掛けとくよ。でも、俺はできればーーー」

「澤田さん」


あいつの言葉を、急いで遮った。
何を言うか、容易に想像できたから。

俺を見た彼女に、用件を伝える。


「5分後に副社長の来客が1階に着くそうだから、迎えに行ってもらえる?」

「え? はい」

「早川さんが先に行って待ってるから、よろしく頼む」

「承知しました」


エレベーターに向かう彼女に、あいつが声を掛ける。


「莉夏、また連絡するよ」

「うん、待ってる」


そう言って、彼女はエレベーターに乗り込んだ。


あいつは俺の方をじっと見て、何か言いたそうな雰囲気はあったものの、そのまま自分の部署に戻っていった。


『俺はできればーーー』

その後は『莉夏とふたりで行きたい』だろう。

その誘いが、少しずつ縮めた彼女との距離を一気に引き離す気がして、俺は大人げなく遮った。


翌日から、だろうか。

彼女とのミーティングの雰囲気が変わった。


仕事の話は淡々とするものの、それ以外の話になると、急に口を閉ざすようになった。


今日も、途中からずっと黙っている。

俺が、あいつの誘いを遮ったからか?
すぐに思いつくのはそれくらいだ。


「澤田さん」

「・・・はい」

「慎ましやかなのも、いいんだけどさ」

「・・・」

「たまには・・・さ」

「はい」

「思ってること、口にしてみたら?」

「え?」


俺は、強硬手段に出た。


「何でもいいから」

「・・・」

「言うまで、待ってる」

「そんな・・・」

「待ってる」


俺は、真っ直ぐに彼女の目を見て言った。
瞳が揺れていて、戸惑っているのがわかる。


「部長、次もミーティングありますよね? もう時間ですし、みなさんお待ちですよ」

「そうやって・・・」


俺は、ため息をついた。
決してはぐらかしているつもりはないだろうが、今この瞬間はそう感じた。


ブブ・・ブブ・・
手元にあるスマホが揺れた。


「なんだよ、副社長か」


タイミングが悪いな、まったく。


「あの・・・行ってください」

「ん?」

「副社長がお呼びなんですよね?」


明らかにホッとした表情の彼女に、俺は少し苛立った。


「次、いつだっけ?」

「何がですか?」

「次にふたりで話す機会」

「次は・・・部長の福岡出張の後になるかと」

「出張後か・・・」

「はい」


先すぎる。
苛立ちが、焦りに変わった。


「どうして、何も言わない」

「え?」

「俺に言いたいこと、あるんだろう?」

「・・・」

「まったく・・・」


このままだと彼女を責めてしまいそうで、俺は自分自身を落ち着かせるためにも、一度ミーティングルームを出た。
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