流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
「本当?」

「莉夏が秘書になってフロアが離れて、俺はベトナムに長期出張に行って、ものすごい距離ができたけどね」

「・・・うん」

「途中、何度か諦めようとした。でも、ほんの短い時間でも顔を見る度に、触れたくて、抱き締めたくて、どうしようもなかったよ」


俺は照れ笑いした。
こんなことを、面と向かって話す日が来るなんて。


「ずっと、莉夏だけだったんだ。俺の心の中にいたのは」

「航平・・・」

「だから、もう泣かないで。莉夏」


俺は、彼女をなだめるようにやわらかいキスを繰り返した。

でも、想いが通じたことで、俺はその先を求めるかのように唇に熱をこめると、彼女が吐息を漏らした。


「・・・は・・ぁ」


背筋がゾクっとした。
俺は、彼女の首筋に指を這わせた。


「航平・・・私・・・」


何か言いたそうな彼女を遮り、俺は別の場所に連れて行く。


「莉夏、こっち、来て」


明かりのついていない寝室に入り、俺は彼女をベッドの端に座らせた。


「もう一度言うけど、俺の一番大切な人は莉夏だから」

「うん・・・」

「莉夏に・・・触れてもいい?」


その言葉の意味を察したのか、彼女は俺の首元のネクタイをほどき、そのままシャツのボタンをはずした。


それが合図のようにお互いに唇を合わせ、俺の唇は、彼女の首筋から鎖骨へと降りていった。


「航・・平・・・は・ぁ・」


彼女の息が上がる。


「ねぇ莉夏、もっと、触れてもいい?」

「もう聞かないで・・・航平」


掠れるような声で彼女は言う。

俺の身体も彼女の身体も、そこから熱が冷めることは無く、最後はひとつに溶けた。




ふと、額に彼女の指が触れた気がした。


「どうした、莉夏。目が覚めた?」


俺は目を閉じたまま、つぶやいた。


「うん・・・ごめん、起こして」

「いや、いいよ・・・莉夏は、俺のそばじゃ眠れない?」


半分冗談のつもりで、そう聞いた。


「ううん、そんなことない。ただ・・・」

「ただ?」

「なんだかまだ夢の中にいるみたいで。目が覚めたら、やっぱり私はひとりなんじゃないか・・・って、怖くて」


彼女の髪に指を通しながら、俺は目を細めた。


「ひとりが怖いなら、莉夏の気が済むまでここにいたらいいよ」

「え?」

「どこにも行かないって言ったところで、そんなの口先だけだろ? だったら目が覚めた時に、いつも俺が横にいればいいんだから」

「そうだけど・・・」

「何度目が覚めても、俺はここにいる。莉夏が、それを自分で確かめたらいいんだ」

「航平・・・」


彼女のためだけの提案ではないことを、俺は付け加える。


「それに・・・俺も、触れられる距離に莉夏がいるのは嬉しいから」

「うん・・・」


彼女がやわらかく微笑んだ。

同じベッドに彼女がいて、声も手も届く距離にいて、安心して笑っている。

幸せだな・・・と思った。
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