流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
微笑む彼女を眺めながら、彼女だけが不安を抱えていたわけじゃないことを伝えた。


「でも、本当は俺も莉夏と同じだよ」

「え?」

「本当は、俺もまだ信じられないんだ」

「航平・・・も?」


彼女の問いかけに、素直にうなずく。


「ずっと、莉夏の全てに触れたいって思ってた。だから、夢中で抱いた」

「本当?」

「そうだよ。優しくしなきゃいけないって考えてたけど、ちょっと強引だったかなって反省してる」

「そんなことない・・・優しくて・・・」

「ん? 優しくて?」

「溶けそうだった・・・」


彼女は小さな声で、恥ずかしそうに言う。


「そんな可愛いこと言うと、もう1回したくなるだろ」

「やだ、もぅ」


彼女を守ってやりたいな・・・ずっと。
俺に、できるだろうか。


「でも、莉夏に触れたいっていうのが叶ったら、今度は逆に怖くなった」

「え?」

「だって、手に入れたら、次は失うかもしれないだろ?」

「それは嫌。もう・・・」


彼女の表情から笑顔が消えた。


「もう、何?」

「もう、航平と離れたくない」


そう言って彼女は俺の首に両手を回し、唇を寄せてきた。

ふたりとも裸のまま寝ていたから、そんなことをされたら、ダイレクトに彼女の肌が触れる。


当然、俺の胸の位置には彼女のやわらかい胸があり、さすがにもう・・・。


「莉夏、そんなことされたら、ガマンできないって・・・」


首に回された彼女の手をつかんだまま、俺は覆いかぶさった。


「はぁ・・・ぁ、航・・・平」


彼女の甘い声を聞いて、身体が震えた。


「莉夏、もう絶対に離さないから」


少し冷え始めたお互いの肌は、再び熱を帯びていった。




目が覚めると、隣に彼女の姿はなく、代わりにコーヒーのいい香りがした。


服を着てリビングに行くと、彼女がマグカップを持ってソファに座っていた。


「起きてたんだ」

「あ、うん。勝手にキッチン触ってごめんね。コーヒー飲みたくて」

「じゃあ・・・俺にも淹れてくれる?」

「もちろん」


キッチンに立つ彼女が愛おしくて、俺は後ろから腰のあたりを抱き締めた。


ガチャン!


彼女の手からカップが離れ、シンクに落ちた。


「莉夏、どうした?」


彼女は震え、シンクに涙の粒がこぼれ落ちる。


「莉夏、どうしたんだ?」


腕の中の彼女を、俺の方に向けた。


「・・・航平でしょ?」


涙顔のまま、彼女が言う。


「え?」

「あの時、助けてくれたのは航平だったんだね」


そう言って、彼女が俺の背中に手を回した。


「ごめんなさい、顔はまったく覚えていなくて。抱き締められた感覚と、温かい手と、シトラスの香りだけ覚えてた。いま後ろから抱き締められて、全部が航平とつながって・・・」


彼女は俺を見上げて、涙を浮かべたまま微笑んだ。


「航平は・・・もしかして最初から気付いてた?」


俺はうなずいた。


「ずっと、見てくれてたんだね。ずっと、守られてたんだ・・・」

「だから言ったろ? 俺は何年も前から莉夏しか見てない・・・ってね」


『ほんとだね』と言い、彼女は嬉しそうに俺の胸に顔をうずめた。


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