流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
帰り道、ふと薬局の前を通った時に、そういえばと思い当たることがあった。


『流れに、任せてみる?』


あの日以来、生理が来ていない。
最後に生理が来てから、もう2ヶ月経っている。

ということは・・・。


私は薬局に入り、妊娠検査薬を買った。

マンションに帰り、すぐトイレに向かう。


「あぁ・・・」


『判定』の部分に赤い線がくっきりと出ている。

彼に、いつ伝えようか。
それより、病院に行くのが先?


ひとまず『病院に行く』とだけ伝え、産婦人科のクリニックに向かった。


「最後に生理が来た日から数えるので、ちょうど妊娠3ヶ月に入った頃ですね。ほら、ここ見えますか?」


医師に指差されたモニタ画面を見ると、チカッチカッと、弾けるような小さなシグナルが見えた。


「これって・・・」

「そう、赤ちゃんの心臓。元気ね〜」


きっと、彼も動く画像を見たかったって言うだろうな・・・。

そんなことを考えながら、私はクリニック近くの書店で妊婦さん向けの雑誌を買って帰った。


数ページめくったところで急に眠くなり、そのまま眠ってしまったらしい。


「莉夏、莉夏」


彼の呼ぶ声で、目が覚めた。


「あ、航平、おかえり」

「大丈夫か? 病院どうだった?」

「うん。元気だって・・・」

「元気? それは、悪いところは無かったってこと?」

「あの・・・元気なのは私じゃなくて、赤ちゃん」

「え?」

「航平と私の」




「え、ええっ!!」




「あの日に、できたみたい」


ふふ、と私は彼の驚いた顔を見て微笑んだ。


「・・・なんか、何て表現したらいいか分かんないもんだな」

「え?」

「嬉しいけど、嬉しいだけじゃなくて責任重大だし、だけど、すげー楽しみだし・・・俺、いい父親になりたい」


彼は目を閉じて、少し先の未来に思いを馳せているようだった。


「大丈夫、航平は今のままでもカッコいいパパになるよ」

「じゃあ俺は、莉夏がずっと可愛いママでいられるように頑張らないとなー」

「私?」

「そうだよ。莉夏がずっと可愛くいられるかは、俺の頑張りにかかってるからさ」

「そうなの?」

「大事にして、愛して、可愛いオーラをずっと出し続けてもらうんだよ」

「えー、なにそれ」

「そしたら、俺も子供も、そのオーラに包まれて幸せ。だろ? だから、俺もずーーーっと莉夏に愛される男でいたいわけ」


そのままで、今のままで、充分素敵なのに。
それでも愛されたいという気持ちが伝わって、嬉しくなった。


愛されたいのは、私だけじゃない。
不安に思うのも、私だけじゃなかったんだ。



「ねぇ、航平。赤ちゃん、心臓チカチカしてて、元気ね〜って先生に言われたのよ」

「え、見たの?」

「見た」

「何だよー、俺も見たかった。どうしてひとりで行くんだよ〜」


やっぱり。想像した通りの反応だった。


「次から。次から一緒に行こ! ね?」

「絶対だぞ。約束な」
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