流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
週が明け、気付いたら異動して1ヶ月が過ぎていた。


「澤田さん、今日の午後は空きある?」

「はい・・・14時と16時なら。来客でしょうか?」


いや、と遮って、部長はパソコンで自身のスケジュールを確認している。


「異動1ヶ月後の面談・・・じゃあ14時だな」

「どこか場所取りますか?」


私もミーティングスペースの空きを確かめる。


「カフェ、行くか?」

「え?」

「緊張して欲しくないから」

「・・・はい」

「じゃ、14時によろしく」

「承知しました」


部長と私の会話を、自分の席で聞いていた早川さんに呼び止められる。


「いいなー、澤田さん。部長とカフェでお茶なんて」


疎ましそうに、私に言う。


「いい・・・ですか? この1ヶ月の不出来を指摘されるかと思うと、気が重いだけですけど」

「・・・すみません、仕事ですもんね」


私の重苦しい表情を見て、早川さんも察してくれたらしい。

この1ヶ月、まだ何の成果も出せていなかった。

秘書業務との違いに戸惑っているうちに、あっという間に1ヶ月が過ぎてしまったのだ。

これから先も、進め方に自信がない。
面談で、どう伝えればいいんだろうか・・・。


午前中の仕事を終え、遅めのランチタイムと面談の準備を兼ねて、13時半頃にカフェに入った。

入ってすぐ脇の席に、キャリーケースを持った板谷を見つけた。


「板谷、これから大阪?」


先週、話をした時に大阪出張があると聞いたのを思い出した。


「莉夏、どうした? そんな暗い顔して」

「うん・・・これから面談があって」

「仕事、上手くいってないのか」

「・・・まだ、これといった成果が無いのよ」

「そっか。でも、あんまり思い詰めるなよ」

「え?」

「莉夏は一生懸命になり過ぎるからな。秘書になった時も、最初は相当辛そうにしてたぞ」

「ほんと? そうだっけ?」


自分でも忘れていた。
だとしたら、あの時はどうやって切り抜けたんだっけ・・・。


「莉夏」

「ん?」

「これ、莉夏にやるよ」


そう言って、板谷は小さな紙袋をテーブルに出した。


「午前中、客先でもらったんだ。莉夏、チョコレート好きだろ?」


リンツの白い紙袋だった。


「いいの? 板谷がもらったものなのに」

「いいよ。俺、これから大阪だからさ、荷物が減って助かるよ」


どうぞ、と私の方に紙袋を差し出す。


「ありがとう。これ食べてもう少し頑張る」


紙袋の中をのぞくと、いろんな種類のフレーバーがあった。


「大阪土産、買ってくるよ」

「え、そんないいよ。仕事なんだし」

「暗い顔してたら、何かしてやりたくなるだろ?」


そう言って、板谷はニコッと笑った。


「じゃ、そろそろ時間だから行くよ」


私の肩をポンと叩いて、板谷はカフェを出て行った。


「澤田さんの彼氏?」


この声・・・。

部長が、隣のテーブルから声を掛けてきた。
< 7 / 54 >

この作品をシェア

pagetop