流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
「部長、いつからそこに?」


板谷とのやり取りを、すべて見られていたんだろうか・・・。
でも、私がカフェに来た時は、確かいなかったはず。


「いつから・・・ね。その白い紙袋が出てきたあたりか?」


聞き方がまずかっただろうか。
部長が、不機嫌そうに話す。


「あの、彼氏、ではないです。マーケ部にいる同期です」

「彼は・・・」

「はい?」

「おそらく、ただの同期とは思ってないだろうね」

「え?」

「オトコの勘」

「それは・・・どういう・・・」

「まぁ、ひとまず彼氏じゃないならいいよ。こっち、来て」


戸惑っている私を、部長は自分のテーブルに招く。

それより。
板谷が、私の彼氏じゃないならいい?

どういう意味だろう・・・。


あ・・・しまった!
面談の準備をするつもりだったのに、板谷と話し込んでしまって、何も用意できていない。


「部長」

「なんだ?」

「申し訳ありません。何も準備できてなくて・・・」

「ん? 準備?」

「あの、1ヶ月の成果を確認されるのでは?」


私の問い掛けを聞いて、向かいに座っている部長は腕組みをする。


「澤田さん、もしかして俺に怒られると思ってる?」


怒られる・・・とは考えていないけれど、良い感触ではないと思っている。

思わず、下を向いて目を伏せた。

部長は黙っている。
私から、何か言わないと・・・。


「戸惑っているうちに・・・あっという間に1ヶ月が過ぎてしまって・・・進め方が良く分からなくて・・・」

「だったら」

「・・・はい」

「そう言ってくれれば良かったのに」

「え?」


私は、顔を上げた。


「困ってるって、言えば良かったってこと」

「でも・・・もう新人じゃないし、自分でどうにか・・・」

「ふーん」


ハッキリしない私に、部長が割り込む。


「そうかー。澤田さんには、俺は頼りない部長だと思われてるんだな」

「え?」

「それとも、冷たいヤツとか?」

「そんなこと・・・無いです」

「いや、あるね。理由はともかく、言っても意味が無いと思われてる」

「あの・・・違うんです、本当に」

「じゃあ、どうして?」

「・・・」

「どうして言わない?」


言葉が何も浮かばない。

どうして・・・って。


「さっきのアイツには言うわけでしょ? 上手くいかない・・・とかさ」


聞こえてたんだ。


「まずは世間話くらいな感じで、言ってくれればいいから」

「は・・・い」

「そしたら、ちゃんと聞くし指示も出す」

「はい」

「指示は・・・さっきの彼には出せないから」

「え?」

「最初から、ちゃんと俺に言うこと」

「・・・はい」

「じゃあ、どこが上手くいかないのか聞こうか」


穏やかな眼差しが、私に向けられる。

そこから業務的な話はできたものの、どうして部長に言えなかったのか・・・は、分からないままだった。
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