現実を置いて駆け出す想い【優秀作品】
私がさっきタクシーを降りたところには、赤い小型車が止まっている。

直くんは当然のように後ろのドアを開けると、中にいる妹さんに声を掛ける。

「1人増えたから」

「えっ?」

驚く妹さんを放置したまま、直くんは私に

「乗って」

と促す。

私は、おずおずと

「はじめまして。お邪魔します」

とその後部座席に乗り込んだ。

すると、直くんは、そのドアを閉めると、反対側に回り込んで、わたしの隣に座った。

「あき、俺の嫁さん。お前の4つ下かな。よろしくな」

直くんはニコニコと私を紹介する。

っていうか、嫁さん!?

その響きに胸がきゅんとなる。

「え、お兄ちゃん、結婚したの!?」

驚いたように妹さんが尋ねる。

「あ、違う、違う。結婚するの!」

妹さんの運転で車は走り出す。

「優花、明日は有休?」

直くんに尋ねられて、私は初めて今日がまだ水曜日だということに気づいた。

「えっと……」

困る私を見て、直くんは、くくくっと笑う。

「優花、何も考えずに飛び出して来たな?」

私は、恥ずかしくなってコクリとうなずく。

「じゃあ、明日は4時起きかな?」

えっ?

驚いた私は、うなずいたまま俯いてた顔をブンっと上げた。

「5時半の電車に乗れば、向こうに8時半過ぎに着くから、ギリギリ間に合う」



それから、直くんちで、直くんのご両親にご挨拶をして、直くんの部屋に泊めてもらった。

「優花、明日早起きだけど、新幹線で寝ればいいよな」

そう言った直くんに、受け止めきれないほどの愛を注がれて眠る。

そして、翌朝、わずかな仮眠の後、直くんに駅まで送ってもらって、私は会社へと向かった。




─── Fin. ───


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