四校の恋愛トピック
May's story

ーパタン。私は小さくため息をつきながら、手元の文庫本を閉じた。読み切ったわけではない。何かが背中に当たったと思っていたが、それが激しくなり、ついには頭に当たったからだ。
(ーはぁ、めんどくさ…)
そう思った矢先、どうやら私に丸めた紙を投げつけてきていた彼女らのに癪に触ってしまったようだった。
「あんた、無視すんの?ウザっ」
「それな。ダルいって。『圏外』のくせに、なんなのお前」
私は、そんな暴言にじっと耐える。そのとき、他の女の子のような悪意が混じっていないように聞こえる、軽やかな声が聞こえてきた。
「まぁまぁ。ユカちゃんもアイちゃんも、落ち着いて。クルミちゃん、困ってるじゃない。」
組んだ指の上に顎を乗せて天女の笑みを浮かべている彼女は、一見しただけならいじめられっ子を庇っているような構図になっている。
「かりん、でも…」
そういう女子に、彼女は笑みを深めて言葉を被せる。
「アイちゃん。目立っているわ。そういうことは控えないと。」
遠回しに『男子に見られてるんだから、そういうことは公にしちゃダメでしょ』ということだ。
「でも、許せないよ…、かりんちゃんが望んでくるみちゃんと姉妹になったわけじゃないでしょう?なのに、この子ったら、かりんちゃんをいじめているだなんて…お友だちとして、見ていられなかっただけよ、ねぇ、藍紗ちゃん?」
そう、ボブカットのふわふわの髪を揺らしながら、一人の女の子ーー、二見さんがいった。
「そ、そうよ!」
二見さんの嬉しいフォローに気づかないほど頭が悪くなかった安斎さんは、認めたくなさそうに頷いた。
「なら、いいじゃない。戻ろう、二人とも」
そういって、花梨ちゃんが二人を引き連れて自分の教室に帰っていった。
「…まぁた、いじめられてるよ、妹ちゃん」
「なんか、よくある漫画みたいな展開」
「なら、天宮妹も助かるんじゃね?いい男が現れて」
「いや、でもさー、千秋にアタックしてる女子の筆頭が杉原の方だろ?カースト1位の女子には流石に敵わんだろ…」
「でも、成績は胡桃ちゃんの方がいいよ?主席だし」
「たしかに、AのトップとDのビリを比べたら、Aのトップを選ぶよねー…」
「ちょ、櫂、花梨グループの女子が見てる!!いうなよそーいうの!」
「…確かに、成績は最底辺のカースト上位ギャル…じゃなくてオシャレ姉と成績トップのカースト圏外美少女妹じゃなぁ…」
「わ、わーわーわー!!しぃーっ!!」
クラスメイトが騒がしくなってきた。そろそろ、潮時かもしれない。私は椅子から立ち上がり、そのまま教壇に立ち、声をかけた。
「…座ったほうがいいですよ」
そう、一言だけ声をかけると、皆渋々という感じでにぞろぞろ座っていってくれた。
「…松本君を呼んでくるので、まってて下さい」
もう一人の学級委員がいないことに気づいて、そう言って教室を出る。
そもそもなんで、私が学級委員をしているのかというと、A組で主席だからだ。ちなみに、今呼びに行こうとしている松本くんは、次席なので副委員長をしている。なんで、姉の友人たちに嫌われている私が信任されたのかは謎だが、なんでか私は学級委員を務めている。私は毎日松本君を探しているので、ほとんどどこにいるのかは把握している。だから、迷わずに足を進めた。そして、第二音楽室の前につくと足を止めた。かすかに『ホール・ニュー・ワールド』が聞こえてくる。ディズニーの、かの有名な曲だ。ドアノブを掴んだまま少し躊躇った後、ドアを開けて中に声をかける。
「…あの、松本君」
「…」
松本君はフルートに集中していた。私の声は聞こえていないようだ。「…松本君」
「…」
「…松本君!」
私が声を張り上げると、やっと気づいて顔を上げてくれた。
「…ごめん。肩、叩いてくれたらよかったのに」
そういう彼に、私は少々呆れていった。
「松本君はそれでいいのかもしれないけど、他の人は触られるのも嫌がるから。それに、いつも大きな声をだしたら気づいてくれるから問題ないの」
すると、少し複雑な顔をした松本君がつぶやいた。
「多分、嫌がっているんじゃなくて…いや、なんでもない」
私は訳がわからなく、首を傾げたが、皆を待たせていることを思い出し、ドアにむきなおる。
「みんな待ってるから、いこう」
「…ああ。」
私が教室る廊下に出て歩き出すと、松本君も私に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
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