プリンセス・オブ・カグヤ
「はぁ、はぁ。神楽耶、神楽耶はどこにいるんだ」
「人間ごときが、何を慌てておる。妾の娘はここにいるではないか」

 龍二、やっぱり龍二だ。来てくれたんだね。でも、なんで声が出ないのよ。まさか……。

「その通りよ、神楽耶。妾の力で、お主を支配しておるのだよ。だが安心するがよい、心だけは支配しておらぬからの」

 どういうことなの。お母様は、私に何をさせようとしているのよ。動いて、なんでこの力を振りほどけないの。多分、このままじゃ、龍二が……龍二が危ないのよっ。

 龍二は手を伸ばせば届く距離にいる。
 声を出せばきっと答えてくれる。
 それなのに、今は自分の意思で動かせない体と声が憎かった。

「神楽耶、約束を果たしに来たよ。さぁ、僕と一緒に帰ろう。僕はどんな手を使ってでも、キミを連れて帰るからね」
「ほほう、どんな手でもか。その覚悟に免じて、お主にチャンスをやろうではないか」
「チャンス……ですか。貰えるものは、なんでも貰いますよ」

 ダメ、その提案を受けてはダメよ、龍二。お母様は、そんな優しい人ではないの。嫌な予感がするの、だから、今はここから逃げてよ龍二。お願いだから……。

 私の悲痛な叫びなど届くはずもなく、龍二とお母様の間で約束が交わされようとする。
 声をあげて止めたいけど、私の体は……ピクリとも動かなかった。

「ならば、妾と契約するのだな。妾が与える試練に打ち勝ったら、元の神楽耶を返してやろうぞ」
「望むところだ。契約でもなんでも、交わしてやる。絶対に僕の元へ神楽耶を取り戻してみせる」
「それでは、契約成立、ということでよろしいな」
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