そんな裏設定知りません! 冷酷パパから結婚を申し込まれましたが、これって破滅フラグですか?


「……おやおや。ふたりともいるじゃないか。開けてくれよ」


姿を現したのはイルバクト学長で、いつも通り手には酒瓶が握り締められている。

「おっ、その紙袋は!」とテーブルに置いてあるカップケーキの入った袋をすぐに見つけて駆け寄っていく様を、文句言いたげにじっと見つめながら、ゼノンがソフィアにこそっと呟く。


「イルバクト先生が、俺と一緒ならとソフィアをこの一号館の特別室に入れた理由がこれだ。他の館の特別室は鍵で、合鍵は厳重に保管されているが、この部屋は違う。何かあった時のためにと、水晶にはあらかじめイルバクトの魔力も込められている。その権限を乱用し、好き勝手に入室できるからだ」


ほくほく顔でカップケーキを両手にひとつずつ持ったイルバクト学長は、ソファーにドカリと腰掛ける。

そこへ、お酒の入った袋を両手で抱えたハンナも戻ってくる。

すっかりソファーでくつろいでいるイルバクト学長の姿を目にすると「あらもういらっしゃっていたんですね」と笑みを浮かべた。


「何ふたりともぼんやり突っ立っておる。カップケーキを食べようじゃないか。早く座りなさい」


カップケーキを頬張りながらの呼びかけに、ゼノンは口元を引き攣らせる。


「……酔っ払いめ」


ソフィアはそのひと言に噴き出しつつ、ゼノンの手を掴む。

そして、「私たちも食べましょうと」声をかけ、しっかりと指を絡める。

笑顔のソフィアに、ゼノンも口元に笑みを浮かべて、共に歩き出した。



< 225 / 276 >

この作品をシェア

pagetop