そんな裏設定知りません! 冷酷パパから結婚を申し込まれましたが、これって破滅フラグですか?
成犬が飛びかかろうとした瞬間、駆け寄るソフィアを追い抜くように熱風が吹き抜け、成犬の勢いを削いだ。
子犬の前に飛び出してきたソフィアに対し、成犬は狂ったように唸り声をあげるが、欠伸をしながらのろのろと歩み寄ってきたゼノンに気づいた途端、怖気付くように後退りする。
「うるさい犬だな」
じろりと睨みつけられれば、またわずかに後退するも、蠢くような黒い靄がその体から滲み出てきた途端、成犬は先ほどの勢いを取り戻したようにゼノンに向かっていった。
「危ない!」
ソフィアが叫ぶと同時に、ゼノンに手を差し向けられた成犬が凍りつき、パタリと横に倒れる。
校舎の方からイルバクト学長とケイト先生が駆け寄ってきて、「大丈夫かい?」と声をかけられたソフィアはコクコクと頷いた。
ゼノンを含めて、三人は凍りついた成犬を見下ろしながら何やら難しい顔で話し出した。
ソフィアはハッと思い出し、自分の後ろへと振り返る。
まだ子犬はそばにいたが、右足を噛まれたのか、痛々しい傷跡から血が流れ出していた。
痛みと消えぬ恐怖心からか、ブルブルと小さな体を震わせている子犬へと、ソフィアはその場に膝をついて、そっと手を伸ばす。