僕が犯罪者になった理由
「僕がやりました」
僕が何をしたかって?落とし物を届けに来た?いや違う。
道を訪ねに来た?違う。ここは警察署だ。
「続いてのニュースです。自宅で頭から血を流して倒れていたという40代男性の意識が戻ったとのこと。加害者は未だ行方をくらませているようです」
そう、僕はこの傷害事件の『犯人』なのだ。
これは確かおとといの事。
僕は普通の男子高校生。勉強も運動もできる方だし、この学校生活に対して不満がある訳でもない。けれど学校は僕にとって居心地が悪く、どこか窮屈なんだ。それでも僕が学校に来る理由は1つ。好きな人がいるからだ。名前は如月柚。いつも明るくて笑顔がかわいい。柚とは家が近くて昔から仲が良かった。幼なじみであり初恋の人でもある。でも柚にとって僕は単なる幼なじみ止まりなのだろう。ただ、僕はこの関係のままで充分だった。 「神宮寺ー。確か如月と家近かったよな?これ届けてもらえないか?悪いな」
今日柚は風邪で学校を休んでいるから、プリントを届けに行くよう頼まれた。少しでも話せる理由ができた事が嬉しい。
「ピンポーン あの、神宮寺蓮です。柚いる?」
応答がない。柚、寝てるのかな。起こすのも悪いしポストに入れておこう
と思ったその時。
「ドン」
鈍い音がした。心配になった僕はノックをして玄関に入った。そこで目に映ったのは父親に殴られる柚の姿だった。
知らなかった。柚は今も楽しく過ごしているとばかり勝手に思いこんでいた。だっていつも幸せそうに笑っていたから。気づけなかった。
何で実の娘を殴れるのか、意味がわからない。僕に気づいた柚は『助けて』と訴えかけるようにこっちを見た。その場に立ち尽くしていた僕はそれを見て何も考えられなくなった。気がつけば目の前に頭から血を流す柚の父親の姿があった。柚は青ざめていた。自分が何をしたのか、我に返った僕はその場に居られなくなって、走って、走って、走って、走り続けた。そこは見知らぬ公園だった。気がついたらあたりは真っ暗だったし、今日はここで夜を過ごすことになった。いつもは鬱陶しく感じてしまう夏の暑さが、今日ばかりは僕のしてしまった事を考えさせないようにしてくれているようだった。
どれくらい時間が過ぎた頃だろう。そろそろお腹が空いた。
近くが賑やかだったからそこへ足を進めていくと大通りについた。
幸い財布を持っていたから目に入ったファーストフード店で久しぶりの食事をとろう。そう思って歩き出した時。
「東京都の交差点でトラックによる交通事故が発生。死傷者が9人出るという、大きな事故になりました。死亡したのは、ーさん、ーさん、如月ゆ柚さん。重軽傷を負ったのは…」
え?僕は何も考えられなくなった。柚が死んだ?しかも交通事故で?
その場から動かない僕を人々は冷めたような目で見てきた。人々の楽しそうに話す声が僕だけを置いていくような気がして、無性に切なくさせた。
最期まで柚を笑わせてあげられただろうか。すぐに頭に浮かんだのは青ざめた柚の顔だった。あれは僕がさせた顔だ。
「てかさーこの辺で男の人が殴られたって事件、まだ犯人見つかってないらしいよー笑」
「えー何それ?こわ〜笑」 僕だ。その犯人は僕だ。けれどあれは柚を守るためにしたはずの行動だ。でも結果的に守れたのか?何も守れていないじゃないか。柚は本当に優しいよな、自分が虐待されていたのにそれを警察に言うことはしなかった。
僕はそんな人を悲しませた。もう少し1人きりで逃げたまま考えていたかったけれど、心に決めた。
「柚、ありがとう。好き、だったよ」
届くことのないこの想いを胸に、僕は警察署の扉を押した。
「僕がやりました」
僕が何をしたかって?落とし物を届けに来た?いや違う。
道を訪ねに来た?違う。ここは警察署だ。
「続いてのニュースです。自宅で頭から血を流して倒れていたという40代男性の意識が戻ったとのこと。加害者は未だ行方をくらませているようです」
そう、僕はこの傷害事件の『犯人』なのだ。
これは確かおとといの事。
僕は普通の男子高校生。勉強も運動もできる方だし、この学校生活に対して不満がある訳でもない。けれど学校は僕にとって居心地が悪く、どこか窮屈なんだ。それでも僕が学校に来る理由は1つ。好きな人がいるからだ。名前は如月柚。いつも明るくて笑顔がかわいい。柚とは家が近くて昔から仲が良かった。幼なじみであり初恋の人でもある。でも柚にとって僕は単なる幼なじみ止まりなのだろう。ただ、僕はこの関係のままで充分だった。 「神宮寺ー。確か如月と家近かったよな?これ届けてもらえないか?悪いな」
今日柚は風邪で学校を休んでいるから、プリントを届けに行くよう頼まれた。少しでも話せる理由ができた事が嬉しい。
「ピンポーン あの、神宮寺蓮です。柚いる?」
応答がない。柚、寝てるのかな。起こすのも悪いしポストに入れておこう
と思ったその時。
「ドン」
鈍い音がした。心配になった僕はノックをして玄関に入った。そこで目に映ったのは父親に殴られる柚の姿だった。
知らなかった。柚は今も楽しく過ごしているとばかり勝手に思いこんでいた。だっていつも幸せそうに笑っていたから。気づけなかった。
何で実の娘を殴れるのか、意味がわからない。僕に気づいた柚は『助けて』と訴えかけるようにこっちを見た。その場に立ち尽くしていた僕はそれを見て何も考えられなくなった。気がつけば目の前に頭から血を流す柚の父親の姿があった。柚は青ざめていた。自分が何をしたのか、我に返った僕はその場に居られなくなって、走って、走って、走って、走り続けた。そこは見知らぬ公園だった。気がついたらあたりは真っ暗だったし、今日はここで夜を過ごすことになった。いつもは鬱陶しく感じてしまう夏の暑さが、今日ばかりは僕のしてしまった事を考えさせないようにしてくれているようだった。
どれくらい時間が過ぎた頃だろう。そろそろお腹が空いた。
近くが賑やかだったからそこへ足を進めていくと大通りについた。
幸い財布を持っていたから目に入ったファーストフード店で久しぶりの食事をとろう。そう思って歩き出した時。
「東京都の交差点でトラックによる交通事故が発生。死傷者が9人出るという、大きな事故になりました。死亡したのは、ーさん、ーさん、如月ゆ柚さん。重軽傷を負ったのは…」
え?僕は何も考えられなくなった。柚が死んだ?しかも交通事故で?
その場から動かない僕を人々は冷めたような目で見てきた。人々の楽しそうに話す声が僕だけを置いていくような気がして、無性に切なくさせた。
最期まで柚を笑わせてあげられただろうか。すぐに頭に浮かんだのは青ざめた柚の顔だった。あれは僕がさせた顔だ。
「てかさーこの辺で男の人が殴られたって事件、まだ犯人見つかってないらしいよー笑」
「えー何それ?こわ〜笑」 僕だ。その犯人は僕だ。けれどあれは柚を守るためにしたはずの行動だ。でも結果的に守れたのか?何も守れていないじゃないか。柚は本当に優しいよな、自分が虐待されていたのにそれを警察に言うことはしなかった。
僕はそんな人を悲しませた。もう少し1人きりで逃げたまま考えていたかったけれど、心に決めた。
「柚、ありがとう。好き、だったよ」
届くことのないこの想いを胸に、僕は警察署の扉を押した。
「僕がやりました」