情熱の続き
「考えすぎだよ。昔からずっと四人で集まってたから、里穂は学生時代が懐かしいんじゃないかな」
「そうかしら?宗は貴広と付き合いが長いだろうけど、私だってそこそこ長いのよ。それに、私のほうがそういうのに気づきやすいの。アイツ、絶対嫉妬深いから。たとえただの男友達でも里穂の半径一メートル以内に近づいただけで攻撃してきそう」
桃子が冗談のような本気の口調で言うのがおかしくて、宗一郎は声を出して笑った。こうして桃子と話していると、何かすごく大変なことが起こる気はまるでしないのだ。
笑いが収まったところで宗一郎は穏やかに言った。
「何も心配するようなことはないよ。」
そうだ、何も起こらない。里穂と貴広が結婚したことはきちんと受け止めていた。貴広から里穂への想いを告げられたときから、ずっと覚悟していたことだった。宗一郎は自分が貴広のこともすごく大切に思っていることを実感する。人生でもう二度と出会えない、貴重な友人。自分にはない魅力をたくさん持っている、かっこいい自慢の友達だった。
そしてこうして桃子と話をしていると、里穂と貴広の二人が目の前に現れても、またかつてのように四人で楽しく過ごせるはずだと宗一郎は思えた。
桃子はそれならいいけれどと言って、少しだけ話を続けた。
「私は正直、貴広でも宗でも、どっちが里穂の相手になってもよかった。絶対に自分が里穂を幸せにすると言い切って安心させてくれるなら、誰でもよかった。今はただそれを先にしたのが貴広だったっていうだけなんだと思ってる。でも結果的に、貴広でよかったのかなともね。里穂と宗はあまりにも似すぎているわ。私ね、二人の姿を見ていると磁石のことを考えちゃうの。磁石って、普通N極とS極でひかれあうでしょう。同じ極だと決してくっつかない。どんなに無理やりくっつけようとしてもだめ。絶対に。宗は、よく知っているでしょう。」
こういうとき、宗一郎は桃子にかなわないなと思う。宗一郎は、里穂に対する特別な想いは誰にも打ち明けたことはなかった。人に言うことでもないと思っていたのだ。里穂をずっと大切に思っていただけだった。うっかり手を伸ばして、これまでの関係が壊れてしまうのを恐れていた。それは貴広も同じだった。貴広に遠慮していたというよりも、互いに様子見をしていたというのが正しいだろう。だからみんなただ見ているだけだった。
でも桃子はもっと俯瞰的に自分たちの関係を見ていて、きちんとわかって、見守ってくれていたのだ。そんな桃子の信頼を裏切りたくないと宗一郎は思った。
「確かに磁石はそうだけど、僕の研究には関係ないよ」
宗一郎の言葉に桃子は電話越しでも伝わるほど呆れたように声を出す。
「どうしてそういう返しをするの?人が真面目に話をしているのに、いつもそうやって大事なことを言わない」
桃子の言葉に宗一郎は笑いながらも何も言えなかった。
「わかるのよ、宗の気持ちも。里穂の気持ちも。二人とも言わないけど、あなたたちってよく似ていて、優しくて、いつも気を遣いあってた。だから二人はお似合いのような気もしていた。惹かれる気持ちもわかるしね。似ていると自分たちは分かり合えるって思っちゃう。でも違ったのよ、結局。いろんなことが全部」
桃子がどうしてそんなことを言うのかと思いながら、宗一郎はふと、勢いよく互いの意見を言い合ってよくしゃべる貴広と桃子が並んでいる姿を思い出した。四人で集まると、会話の中心は主にこの二人だった。そのとき、宗一郎はもしかしてと桃子の気持ちを想像するが、特に聞くこともしなかった。
そのうちに桃子が念押しする。
「とにかく、今はもう貴広と里穂が結婚していることを忘れないで」
互いに電話の向こうは本当に何も聞こえなかった。クリスマスなのに、BGMも生活音も、何もなかった。その何もない世界で宗一郎は言った。
「もちろん」
それだけ言って電話を切って、真っ白な天井を仰ぎ見て大きな息をついた宗一郎は言った。
「忘れるはずがないよ」
里穂と最後に会ったときのこと。抱きしめたときの感触も、その左手の薬指にきちんと指輪をしていたことも、宗一郎はその一つ一つを思い描けるほど鮮明に覚えていた。
「そうかしら?宗は貴広と付き合いが長いだろうけど、私だってそこそこ長いのよ。それに、私のほうがそういうのに気づきやすいの。アイツ、絶対嫉妬深いから。たとえただの男友達でも里穂の半径一メートル以内に近づいただけで攻撃してきそう」
桃子が冗談のような本気の口調で言うのがおかしくて、宗一郎は声を出して笑った。こうして桃子と話していると、何かすごく大変なことが起こる気はまるでしないのだ。
笑いが収まったところで宗一郎は穏やかに言った。
「何も心配するようなことはないよ。」
そうだ、何も起こらない。里穂と貴広が結婚したことはきちんと受け止めていた。貴広から里穂への想いを告げられたときから、ずっと覚悟していたことだった。宗一郎は自分が貴広のこともすごく大切に思っていることを実感する。人生でもう二度と出会えない、貴重な友人。自分にはない魅力をたくさん持っている、かっこいい自慢の友達だった。
そしてこうして桃子と話をしていると、里穂と貴広の二人が目の前に現れても、またかつてのように四人で楽しく過ごせるはずだと宗一郎は思えた。
桃子はそれならいいけれどと言って、少しだけ話を続けた。
「私は正直、貴広でも宗でも、どっちが里穂の相手になってもよかった。絶対に自分が里穂を幸せにすると言い切って安心させてくれるなら、誰でもよかった。今はただそれを先にしたのが貴広だったっていうだけなんだと思ってる。でも結果的に、貴広でよかったのかなともね。里穂と宗はあまりにも似すぎているわ。私ね、二人の姿を見ていると磁石のことを考えちゃうの。磁石って、普通N極とS極でひかれあうでしょう。同じ極だと決してくっつかない。どんなに無理やりくっつけようとしてもだめ。絶対に。宗は、よく知っているでしょう。」
こういうとき、宗一郎は桃子にかなわないなと思う。宗一郎は、里穂に対する特別な想いは誰にも打ち明けたことはなかった。人に言うことでもないと思っていたのだ。里穂をずっと大切に思っていただけだった。うっかり手を伸ばして、これまでの関係が壊れてしまうのを恐れていた。それは貴広も同じだった。貴広に遠慮していたというよりも、互いに様子見をしていたというのが正しいだろう。だからみんなただ見ているだけだった。
でも桃子はもっと俯瞰的に自分たちの関係を見ていて、きちんとわかって、見守ってくれていたのだ。そんな桃子の信頼を裏切りたくないと宗一郎は思った。
「確かに磁石はそうだけど、僕の研究には関係ないよ」
宗一郎の言葉に桃子は電話越しでも伝わるほど呆れたように声を出す。
「どうしてそういう返しをするの?人が真面目に話をしているのに、いつもそうやって大事なことを言わない」
桃子の言葉に宗一郎は笑いながらも何も言えなかった。
「わかるのよ、宗の気持ちも。里穂の気持ちも。二人とも言わないけど、あなたたちってよく似ていて、優しくて、いつも気を遣いあってた。だから二人はお似合いのような気もしていた。惹かれる気持ちもわかるしね。似ていると自分たちは分かり合えるって思っちゃう。でも違ったのよ、結局。いろんなことが全部」
桃子がどうしてそんなことを言うのかと思いながら、宗一郎はふと、勢いよく互いの意見を言い合ってよくしゃべる貴広と桃子が並んでいる姿を思い出した。四人で集まると、会話の中心は主にこの二人だった。そのとき、宗一郎はもしかしてと桃子の気持ちを想像するが、特に聞くこともしなかった。
そのうちに桃子が念押しする。
「とにかく、今はもう貴広と里穂が結婚していることを忘れないで」
互いに電話の向こうは本当に何も聞こえなかった。クリスマスなのに、BGMも生活音も、何もなかった。その何もない世界で宗一郎は言った。
「もちろん」
それだけ言って電話を切って、真っ白な天井を仰ぎ見て大きな息をついた宗一郎は言った。
「忘れるはずがないよ」
里穂と最後に会ったときのこと。抱きしめたときの感触も、その左手の薬指にきちんと指輪をしていたことも、宗一郎はその一つ一つを思い描けるほど鮮明に覚えていた。