情熱の続き
日本の航空会社の直行便で12時間以上のフライトを経て、およそ一年近くぶりの日本は、きちんと冬らしく寒かった。

都心のホテルに少しの間、過ごす予定だった。
見慣れた東京の街並みが自分たちを旅行者として受け入れてくれているのが不思議な感じだと里穂は笑った。
東京は旅行でロンドンが帰る場所だと里穂が思っていてくれることに、貴広は一人静かに安堵する。
大きな窓から見える東京の景色を見ながら、荷物整理をする里穂に言った。

「一休みしてまずは有名な日本料理でも食べに行こうか」
「どこ?」

期待を詰め込んだまなざしの里穂に聞かれて、貴広が有名な牛丼チェーン店の名前を応えると里穂は「やだ!」とベッドにあったクッションを貴広に押し付けて笑った。こんなふうに、いつまでも冗談を言って二人で笑って過ごせたらいい。それだけでいい。欲を出せばキリがないけれど、少なくとも今は、貴広はそう思っていた。

「明日はそれぞれ以前の同僚に会って、週末の夜は桃子と宗と食事ね。」

スケジュールを確認する里穂の言葉に、思わず貴広の表情はこわばる。里穂の口からでる‘宗’という言葉は、どこか自分を呼ぶ声とは違う気がして、貴広は無視することができない。

「牛鍋のお店を予約してくれたんですって。海外にもスキヤキのお店はあっても、牛鍋って日本という感じがして嬉しいわね」

ベッドにごろりと横たわりながらスマートフォンで友人からのメッセージを確認した里穂が笑顔で貴広に言った。

「じゃあ味を比較するためにも今日はやっぱり牛丼で決まりだな」

貴広が言うと里穂が笑った。やだ、せっかくいいホテルに滞在するのに、と言って。

もちろんそんな貴広の言葉は冗談で、里穂の唇に軽く自分の唇を重ねてからすぐに、彼はシャンパンを取ろうと言った。ルームサービスで、他に寿司でも天ぷらでも、なんでも。誰にも邪魔されず、この部屋で食べよう、と。

そしてもう一度貴広が里穂に口づけする。
しばらく何も口にしていなかった互いの唇は、ひどく渇いていた。
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