シュクリ・エルムの涙◆
「初めてリルに出逢った時のこと、まだリルは五歳だったから、きっと忘れていると思うけど……僕は鮮明に覚えてるんだ」
「え……?」

 あたしの質問に対する返事とは思えなくて、あたしは微かに驚きの声を上げた。

 それを見たアッシュはクスりと笑い、今一度燃える燈に視線を落とす。

「パパに抱っこされて、隣に寄り添ったママへ笑い掛けていたリルは、パパとママの沢山の愛情に包まれて、まるでキラキラした宝石みたいだった」
「アッシュ……?」

 やっぱり意味が分からないよ。

 それは自分の家族と比べていたの?

 あたしは彼の名を呟きながら、少しだけ首を(かし)げてしまった。

「リルは二人の想いが詰まった宝石なんだよ。それは今でも変わらない。リルはちゃんとパパとママに愛されていることが分かっているし、それに応えようとしている自分がいる。だから、ね?」
「だから……??」

 もう一度こちらを見詰めるアッシュ。焚き火に溶かされたみたいな潤んだ(まなこ)が、もう一度ニッと笑いかけた。

「だから君にはパパとママが必須なんだと思ったんだ。どちらが欠けても輝けなくなる。石はね、光があってこそ輝くんだよ。時に光を屈折し、反射し、吸収して……輝き続けるリルを、僕はずっと見ていたい。ただそう思っただけ」
「輝き、続ける……」

 それは……それは、アッシュが両親から愛情をもらえていないと思っているからなの?

 違うよ、アッシュだって……ちゃんと愛されている筈! 愛されているからこそ、アッシュだって輝いている筈!!

 あたしは一瞬そんな想いを口にしてしまいそうになった。でも……タラお姉様に内緒にしてと言われたのだ。叫びたい気持ちを押し殺して、グッと一文字(いちもんじ)に唇を引き締めた。


< 105 / 309 >

この作品をシェア

pagetop