シュクリ・エルムの涙◆
「家々は焼かれ、荒れ野と化した戦場(いくさば)に、残されたのはただ無惨に横たわる男達の屍骸……子供も老人も情けなど掛けられることなく斬り裂かれ、若い女性は欲望のままに(さら)われました。……が、戦士としてこの地を守ろうとした青年の一人が、がれきの中から唯一発見されました」

 ふとツパおばちゃんの(おもて)が、正面のパパを見上げる。その青年ってもしかして、王家アイフェンマイアに繋がる人なのかな?

「彼を見つけたのは、町外れ密かに身を隠していた少女達でした。辺りがやっと静けさを迎えた夕暮れ、戻った少女達は焼け野原と崩れた家々を巡り、ひたすら生存者を探し求めたそうです。そして……ついに彼を見つけ出しました。その少女達というのが、リルヴィ……貴女とユスリハの祖先である【薫りの民】ミュールレインの娘と、タラの祖先である【彩りの民】ハイデンベルクの娘、ルクアルノと私の祖先【癒しの民】ユングフラウの娘……そしてもう一人、名もなき娘の四名でした」(註1)
「名もなき?」

 アッシュが(いぶか)し気に疑問を投げた。そうよ……どうして一人だけが分からないの?


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