シュクリ・エルムの涙◆
「……ご、めんなさい……」

 ジュエルの力が目覚めない今。

 これ以上パパを困らせてはいけない。これ以上ママを助け出すリミットを縮めてはいけない。

 あたしは仕方なく承諾した。心がどんなに反発をしても、こればかりは受け入れなければ。

「良い子だ、リル。気を付けて帰るんだよ。ルク、悪いけど、タラの家まで娘を宜しく頼むよ」
「はい……」

 パパの抱擁の中、俯いてしまったあたしには、ルクの姿は見えなかったけれど。ルクの声も(かす)れてとても残念そうに聞こえた。きっとあたしの気持ちに共感してくれて、そして自分自身も、ママの救出に力を貸せない悔しさともどかしさがあるんだ。

「リルヴィ、どうか気落ちしないでください。必ず私達でユスリハを救い出します」
「うん……ごめんなさい、ツパおばちゃん。でも、ありがとう……ココまであたしを連れて来てくれて」

 本来ならあの合流した一昨日の時点で、おばちゃんはあたしを帰したかったに違いない。それでもギリギリまで同行させてくれたのは、あたし達の意を汲んでくれたからだ。

「では参りましょう。リルヴィ、ルクアルノ、どうか気を付けて」

 二手に分かれた支度が整った。ツパおばちゃんの掛け声が、「三人と一匹」と「二人」を背中合わせにした。

「ツパおばちゃん、アイガー、アッシュ、パパ……絶対無事にママと一緒に帰ってきてね!!」

 全員が一斉に振り向き、笑顔で手を振りながら斜面を登ってゆく。

 名残惜しそうに足の動かないあたしを、ルクは後ろから何も言わず見詰めていた──。



   ■第五章■ TO THE MYSTERY (謎へ)! ──完──



[註1]時を止める:前作をお読みでない方には分かりづらいと思います。ヴェルの王継承者の妃には、年齢の近い事が重要視される為、三年先に生まれていたツパイは花嫁候補の一人となるべく、時を止める魔法を掛けられていた時期がありました。





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