シュクリ・エルムの涙◆
「まもなく道も広くなりますので、もう少し辛抱してくださいね」

 前から反響するビビ先生の言葉に励まされ、殆どしゃがんだ状態で横穴を抜けた。言われた通り広がった洞窟は、先生の身長でも余裕のあるほど天井が高く、しばらく真っ直ぐ続いていた。

「余り近付くのもどうかと思いますから、今夜はこの辺りで休むことに致しましょう。本題は明朝に回すことにして、どうかゆっくり英気を養ってください」

 それから小一時間ほど進んだ先で辿った道が二手に分かれる手前、ツパおばちゃんの提案に頷いたあたしは、ホッと安堵の息を吐いて肩の荷を降ろした。丸みを帯びた広場のようなスペースに、カプセルとザックから取り出したテントを設営する。早目の夕食は持ってきてくれた食糧のお陰で、久方振りに豪勢な食事となった。あたしが使っていた一人用テントにアッシュ、あたしはツパおばちゃんと新しい二人用テントへ、ビビ先生は寝袋でOKですと言ったけれど、どうも朝まで見張ってくれるつもりのようだ。

「途中で交代しますから、師のことは心配せずに眠ってください。心は高揚していても、身体は相当疲れている筈ですよ」

 テントの隙間から先生の様子を窺っていたあたしを気遣って、ツパおばちゃんはブランケットを広げる手を止めた。そう……分かってる。あたしはいつも救われる対象(ヒロイン)であって、誰かを救う主役(ヒーロー)にはなり得ない……それでも。

 昔ジュエルから力を与えられたツパおばちゃんならば、あたしの願いを叶える方法も知っているかも知れない。

「おばちゃん、あたし……教えてほしいことがあるの」

 間に置かれた小さなランプが、瞬きもせず一心に見詰めるあたしの瞳を照らしてくれて。

 おばちゃんはこの眼差しが持つ意味に、もう気付いたみたいだった。

「時が……来てしまったようですね」

 赤い双眸が寂しそうに震えても、あたしの意志は深く深く、地の底までも貫いていた──。






   ■第七章■ TO THE DEPTH(深層へ)! ──完──


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