シュクリ・エルムの涙◆
[6]二人の待ち人? 〈P〉+*
夕方まではそんな調子で航行が続いた。
向かっているのは西だから、前方の窓が徐々に綺麗なオレンジ色に染まっていく。
まだパパが王様だった頃のヴェルは、海のずっと上の上の雲の上に浮かんでいたと云う。もしその時行けたなら、空は近くに感じただろうか? 雲の綿菓子を食べられたんだろうか? なんて……幼いあたしはメルヘンチックに考えたものだった。
『ジュエル』の統治が終わりを告げて、ヴェルが海の上まで降りてきて十七年。
周辺諸国との交流が始まり、他国から移住してきた人もいれば、ヴェルから出ていった人もいる。
ヴェルはずっと温暖な地だったけれど、今は周りと同じく季節が巡るようになった。でも島をぐるりと囲むラヴェンダー畑だけは変わらない。だからいつの時期でも観光客は絶えないし、ラヴェンダーで作った商品も常になくなることはない。これが今の国家経済を支えていると言ってもいいらしい。
パパは自分の作業を終えてから、あたしの宿題を少し見てくれた。一段落が着いたところで空の彩に気付き、夕食の支度をするんだろう、席を立ってキッチンへ向かった。ずっと窓際のチェストで仕事の書類に目を通していたママが、代わりに隣にやって来て、それをテーブルに広げて分類し始めた。ママはいつも仕事熱心だ。飛行船は時代によって変遷していくからだろうけど……それもいつまで続くんだろう? こんなデリケートな乗り物、未来には全て飛行機に取って代わられちゃうんだろうな。