シュクリ・エルムの涙◆
 あたしはサリファに反論しながら、ふとサリファの言葉に引っ掛かった。五十年余──シュクリが眠りにつくのは五十年から六十年だ。てことは……サリファは本当に「この時を待っていた」んだ! 結界から脱出してもサリファがずっと悠長にしていたのは、自身の力を取り戻すためだけじゃなく、シュクリが目覚めるのを待っていたからに違いない!!

『神よ……リトスには(たくら)みがあるのをご存知か? ヴェル創世から二千六百年、国民から生まれ出でる悪意は全てラヴェンダー・ジュエルに蓄えられてきた。それは何故か? この国を神に代わって支配する……そういうことぞ』
「違う! サリファ!! ね……シュクリ! アタシの話を聴いて!!」

 二千六百年前──ヴェルの神さまシュクリによって、町狩りを行なった人達の残虐な心は、抜き取られ封じ込められた。

 それでも悪い気持ちはまた生まれる……町狩りをした人達だけでなく、被害に遭った人達にも、そして、あたし達にだって……そう、例えば(ねた)みや(そね)み、支配欲や差別による(さげす)み──何処にだって存在する淀んだ心。でもヴェルには……そう、ヴェルにはずっと存在せず、平和で穏やかな世界が広がっていた。確かにそんなおとぎ話みたいな状態、ジュエルの力があってこそだった。

 ……でも! それがジュエルのたくらみだなんて──そんなの、絶対、有り得ない!!


< 268 / 309 >

この作品をシェア

pagetop