シュクリ・エルムの涙◆
 ふとサリファの言葉を思い出す──『ジュエルも結局「全て」を求めた……それは何故だ? ジュエルは「全て」を欲っしたからではない……単に選べなかったからであろう?』

「違う……」

 ジュエルは──リトスは……「選べ」なかったんじゃない。「選ば」なかったんだ!

 町狩りにやってきた他国の民も、命からがら逃げてきた人々も、そして唯一生き残ったヴェルの四人の少女達も……ヴェルに関わる全ての人に平和を与えてあげたかった。

「ちょーっと度が過ぎたところもあったけどね」

 サリファ達二千六百年前の悪意だけでなく、再建されたヴェルの全ての悪意まで、今まで吸い取っていただなんて。

 あたしは心の声で笑った。その反応にリトスも照れたように笑ったみたいだった。

「あーでも、あたし達、これからどうやって帰ればいいの?」

 エルムは大丈夫と言ったけれど、自分の町やそれより先のヴェルまでなんて、自力で飛べるとは思えなかった。それより……あれ、れ? リトス、回転鈍くなってない? いや、何か……ホッとしたからかな? あたしもちょっと疲れが……あ? ダ、メ……──!

 ふいに気が遠くなるような浮遊感に襲われて、あたしの回転はバランスを崩し、真っ青な海へと真っ逆さまに落ち始めてしまった。マントも羽織っているのだし、ジュエルの力で飛べばいいだけの話なのにぃ! 何故だか力が……入らなかった。

 ああ、も~どうしよう!? 今度は泳いで帰れって言うの!?


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