シュクリ・エルムの涙◆
 いつの間にか(うら)らかな春は終わり、陽光煌めく夏が近付いていた。

 我が家に植えたヴェル産のラヴェンダーも、もうすぐ満開になりそうだ。

 あれだけ大きな事件を収束したあたしは、少―しくらいは成長出来ただろうか?

 時々ラヴェンダーを見ながらエルムを想い出して、ふと考えてみる。

 あたしが会った少女エルムは、自信がなくて諦めてばかりで……そんな十四歳の弱い心がサリファに付け込まれ操られ、本来在るべき姿に昇華出来ずにいたのかも知れない。

 別れ際に見えた美しいエルム。その変貌に力を与えられていたのだとしたら、あたしもとても誇らしい。

 あんなにステキなエルムだものね、操られていたのは「シュクリの演技」だったって、エルムはリトスから聞かされていたけれど、本当はヤキモチ妬いていたのではないかなぁ? なんて、ちょっと思い出し笑いをしてみたりもした。
 
 あ、そうそう……こっそりママが教えてくれたのだけどね。

 パパが今回動いた理由。ツパおばちゃんを完全に解放したいという目的以外に、もう一つ理由があったの!

 あたしがまだ小さい頃、あたし自身は覚えていないのだけど「なんでお姫サマにしてくれなかったの~!」って、沢山沢山泣かれたことがあったのだって。

 それをずーっと覚えていたパパは、三年後に政権から切り離されるならと、あたしを王家に戻してあげたかったらしい。

 「いやぁ~もうそんな昔のこと!」ってあたしは笑ったけれど、「父親ってそういうものなのよ」ってママは懐かしそうに微笑んだのでした。

 あーでも! だからよね!? いつのことだったか……パパがあたしの言葉遣いを厳しく注意したのは、きっとそのためだったのだと、記憶の端に思い当たる節もあった。


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