シュクリ・エルムの涙◆
■第三章■ TO THE PRECIOUS(宝物へ)!

[16]真夜中の追跡者?

 扉の(きし)む音が微かに聞こえた。……どうして? 二人が寝入った頃に起き出して、家を抜け出そうと思っていたのはあたしなのに。

 あれから五時間ばかり(とこ)に就いて──目的があれば、目覚まし時計が鳴らなくても起きられるものね! ──支度を済ませて部屋から出ようとした矢先、両親の寝室から人影が現れたのだ。トイレにでも起きたのかしら? と慌てて自室の扉を閉めたところ、その人物は手前にあるトイレには入らずに、あたしの部屋の前を通り過ぎて、家の裏戸から出ていってしまった。

 ドロボウなんかじゃないわよねぇ……?

 人気(ひとけ)がなくなったことを確認し、あたしも同じ道を辿ってその影を追った。ちょうど目的の方向は同じようだし、このまま後を追いかけて、誰であったのかを確かめよう!

 もう辺りの住宅も皆眠りに落ちてしまっているのか、光はぼんやりとした青い街灯のみだ。人影は背が高く、スタスタと歩みも早くて、小走りしなければ追いつけなかった。

 で……こんな夜中にあたしが出てきた理由はと言えば……こっそり王宮に忍び込もうとしているから、というのはどうか内緒にしてね! だってどうしてもおばあちゃんとの約束は果たしたいのだ。でも幽霊のおばあちゃんにはきっと夜の間でしか会えないに違いない。だから昼食会の合間にこっそりおばあちゃんの部屋へ赴いて、あたしは一つだけ窓の鍵を開けてきたりもした。野良猫が使っている生け垣の隙間は、今のあたしならまだ通ることが出来る筈だし! 『ジュエル』を保管庫から取り出して瞼の中に挿し込み、これで準備万端!! と思ったのに~まったく……前を歩いていくのは誰なのよ!?


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