シュクリ・エルムの涙◆
 あたしはパパの抱擁の中で、顔を両手で覆って泣いた。「ごめんなさい、ごめんなさい、パパ……」そんな言葉以外、今のあたしには言えることが何も見つからなかった。

「君は謝らなくていい……パパが早く解決しようと焦ったのがいけなかったんだ。……でも、今度はしくじらない。ママを無事に助け出して戻ってくるから、リル……君はツパおばちゃんの所に居なさい」
「パパ……?」

 パパは力の抜けたあたしごと立ち上がって、後ろで言葉を失くしたようにうな垂れるツパおばちゃんを振り返った。

「ツパ……悪いけど、リルのことを頼む」
「ラヴェル……しかし──」
「い、いやっ! パパ……あたしも行く!!」

 パパの背中に慌ててすがった。嫌だ……あたしが悪いんだ……あたしもパパと一緒に行って、ママを助け出さなくちゃ!!

「リル……お願いだから言うことを聞いてくれ」

 パパはもう一度こちらを向いて、あたしの両肩に手を乗せた。言い聞かせるために腰を屈め、聞き分けのない幼子をなだめるように、あたしの涙に濡れた瞳を見据えた。

 嫌だ! 一緒に行く!! そんな思いつめた表情で、あたしはただひたすら無言でイヤイヤをした。

「リル、どうか分かってほしい……パパは……もしリルとママ、二人が同時に危険な目に遭ったら……どちらかなんて……選べない」
「あっ……」

 その時パパは本当に本当に……今まで見たこともない辛そうな眼差しをした。

 両方の瞳が潤んで沈む。片方の目は、義眼である筈だというのに……。

「……う……うん……分かった」

 こんなパパを見てしまったあたしは、その懇願に従うしかなかった。

 だって……あたしもきっと同じだと感じてしまったから。もし目の前でパパとママが危険に晒されたら……あたしもどちらかなんて、やっぱり選べない。


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