シュクリ・エルムの涙◆
 こうして!

 あたし達はついに西の駐機場(マリーナ)にある、タラお姉様の飛行船へ向かうことになった。

 シアンお兄様の操縦する小型グライダーも、二人分のパラシュートも、船内の格納庫に収められているため、運ぶのは当面の着替えに食糧、夜は冷え込むので小型の折り畳みテントくらいだ。

 乗り込んで早速パラシュートの操作方法を学ぶ。もし失敗したらアッシュも一緒に天国行きになる。あたしは緊張を抑えながら、一言(いちごん)一句聞き逃さないよう集中した。

「それじゃあ、そろそろ行くわヨ」

 大きな三つのザックに全てを収納し、試しに背負ってみた二人が「OK」と頷いた。タラお姉様は「無理しちゃダメヨ」と声を掛けながら、一人ずつ強く抱き締め操船室(コクピット)へ消えた。シアンお兄様もグライダーの操縦席に乗り込み、あたし達三人もその後部に続く。定員は四名とは言え、大荷物を抱えているから機内はギュウギュウ詰めだ。(註1)

 まもなくして足元が揺れ、景色は見えなくとも浮上する感覚を得た。重力が全身に()し掛かり、思わずグッと目を(つむ)ってしまう。ノロノロしていればサリファの攻撃の確率も高くなる。だからお姉様は最速で高度を上げ、最速で行ける所まで近付くとあたし達に告げていた。

「大丈夫? リル」

 目の前からいつもの優しい問い掛けが聞こえる。振り返るアッシュへ向け瞳を開き、強張った口元に笑みを作った。

 横に並んだルクも心配そうにこちらを見詰めていた。彼は何も言わなかったけれど、その眼差しに「大丈夫だよ」という気持ちを込めた笑顔を返した。


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