撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
「ううん、俺は何もしていないよ。みのりちゃんが笑ってくれると、俺もすごくうれしい」
「えっ、本当ですか?」
「うん。あれからふたりで話す機会もなくて、ずっと気になってたから。みのりちゃんのこと」
「…………」
「また何かあったら言ってよ? 俺でよければ力になりたい」

 黒目の大きい二重の目。細められた瞳には、私が映っている。
 ずるい――そんな風に優しく微笑まれると、勘違いしてしまう。
 彼が発した台詞に深い意味なんてない。私が悩まなくなったことをよろこんでくれているだけだ。頭ではわかっている。
 ……だけど、欲張りな私が、「ひょっとしてそれらの言葉の裏には、私への好意が隠れているのでは?」なんて期待してしまう。
 テーブルの上に置かれた彼の手に視線を滑らせる。
 大きくて、骨ばっていて、日に焼けた手。だけど温かくて優しい手。
 ――もう一度、その手で私の頭に触れて、そっと撫でてほしい。
 思い浮かべるだけで、あのときを思い出してドキドキしてしまう。
 想像だけでこんなにドキドキするのなら、実際に触れたら左胸が弾けてしまうかもしれない、とさえ思う。
 ヤナさんの手に触れたい。触れてほしい。もう一度、あのときみたいに。
 大好きな彼の顔を見つめていると、みるみるうちに願望が膨れ上がって、制御できなくなりそうだ。
 心臓の鼓動が、私の行動を急かすみたいに加速する。
 どうする? 今訊いてしまう? 
 「期待していいんですか?」と。
 いや。もっとストレートに、気持ちを伝えるべきだろうか。こんなチャンス、きっともうしばらくはないだろうから――
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