撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
 目が覚めると、私の目にはステージとはちがう真っ白な天井が映っていた。
 ……あれ? 私……撮影中だったんじゃ……?

「気が付いた?」

 天井のシーリングライトの明かりを遮るように、赤いヒーロースーツに身を包んだヤナさんが私の顔を覗き込む。
 ……えっ、ヤナさん⁉

「ヤナさん、私――」
「急に動かないで、安静にしてて」

 ベッドから起き上がろうとするのを、硬い表情を浮かべる彼がすかさず制した。
 右側頭部にずきんとした痛みが走る。右手でその場所を軽く押さえながら、大人しく再び横になった。
 視線だけで周囲を見回すと、まるで学校の保健室のような景色が広がっている。多分、建物内の救護室のような場所。
 ……私、さっきぼんやりして……受け身に失敗して、倒れてしまったんだっけ……?

「気分はどう? 気持ち悪かったり、身体に痺れがあったりしない? 目はちゃんと見えてる?」
「……気持ち悪くないです。痺れもないですし、目も見えてます」
「受け答えもしっかりしてるね。ならひとまずは安心してよさそうだ」

 私の答えを聞き届けると、枕元の椅子に座るヤナさんの表情がようやく和らいだ。
 彼の心底ほっとした表情を見るに、とても心配してくれていたことが窺える。

「今、みのりちゃんのマネージャーさんに病院を手配してもらってる。監督が、今日は無理しないで大事を取って、って」
「いえ、そんな、大げさです。私なら大丈夫です」
「だめだよ。ヘルメットを被ってたとはいえ、まともに蹴りを受けて頭を打ったんだから甘く見ないほうがいい。とにかく今は安静にしてて」

 優しい言葉だけれど、私を見つめる瞳と語調は強いものだった。
 彼の背後にある長椅子には、私のとヤナさんの、ふたつのヘルメットがとなり合って置かれている。

「でも……撮影に影響出ちゃってますよね。今日、公開収録なのに……」
「気にしないで――なんて、俺が気軽に言うことじゃないけど。でも、エキストラの画と俺たちの画は上手いことつなげられるから大丈夫って監督も言ってた。だから、そこは安心して大丈夫だよ」
「……よかった」

 最悪、私のせいで撮影のスケジュールを組み直さなくてはいけなくなるのでは、と不安だったから、そうではないことに胸を撫で下ろす。
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