撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
「それでは、お疲れさまでした!」
「お疲れさまでした!」

 一月下旬、某所スタジオ。私たちスーツアクター全員が出演する最後のシーンを撮り終えた。
 長いようで短かった一年間。最初はつらいことも多かったし、「もういや!」と思った回数も数えきれないけど、無事にスターリーピンクという役を演じ切ることができてよかった。
 監督やスタッフさんから労いの言葉をかけてもらいながら、五人で控室に戻る道すがら、

「俺たちだけでお疲れさま会しない?」

 と、つぼっちさんが切り出した。

「いいですね。店探しますよ」

 伊織くんもすぐに乗ってきた。
 番組全体の打ち上げは、変身前のメインキャストと合同で別日に行われることとなっているけれど、先駆けて五人だけの打ち上げをしたいという気持ちが生じるのは自然なことだ。だから私もすぐに「行きます」と答えた。

「ごめんね、あたし先約があって」

 つぼっちさんに視線を向けられ、恵里菜さんがすまなさそうに答えた。彼女がヤナさんに「ね?」と示し合わせるように同意を促す。

「……うん、ごめん。申し訳ない」

 言葉少なに断るヤナさんを見ていると、心が擦り切れたようにひりひりする。
 ――知ってはいたけど、彼の口から出た言葉で確認してしまうと堪える。
 ヤナさん、やっぱり恵里菜さんと約束してるんだ。

「あー、じゃあひとまず今日は三人で飲むことにして、また予定合わせてこのメンツで打ち上げしよう」

 つぼっちさんは、おそらくヤナさんと恵里菜さんの間に漂う妙な雰囲気に気付いていただろうけれど、敢えて突っ込まなかった。伊織くんもきっとそう。
 私たちはそれぞれの控室に戻り、身支度を済ませた。
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