撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
『星河戦隊ファイブスター』で共演した榎原みのりと付き合い始めて三ヶ月。俺たちは順調に交際を重ねていた。
俺たちの関係を知っているのは、今のところ共演していたスーツアクターのつぼっちさんと伊織くん、恵里菜だけだ。
伊織くんには「絶対そうだと思ってました!」と見抜かれていたようだし、つぼっちさんは「ふたりが結婚することになったら、俺、取材されるかな?」と斜め上の心配をしていた。
恵里菜には伝えるべきか悩んだけれど、付き合いも長いし、隠していることのほうが失礼な気がしたから、正直に話した。
『みのりちゃんって、素直だし可愛いししゅうくんの好きなタイプだなぁって思ったから、取られないように釘刺したんだけど……やっぱそういう卑怯なことしようとするとダメだよね。正直、今はまだ応援する気にはなれないけど、努力はするよ』
恵里菜はみのりの気持ちが俺に向いていることにいち早く気付いていたらしい。「同じ人を好きな女性のことはわかるものだよ」なんだそうだ。俺はまったく気が付かなかったのに。
みのりは俺を含め周囲の誰に対しても一線引いている感じがしていた。最初のほうは特に。
休憩時間もひとりでどこかへ消えてしまうし、撮影後に食事に誘ってもスケジュールを理由に断られ続けていた。誰とでも打ち解けやすく、すぐに懐を開いてしまいがちな俺としては、彼女とは適度な距離を保つようにと自戒するくらいだったのだ。
そんなみのりに対する印象が変わったのは、撮影が始まってしばらくして、廃工場で撮影があったとき。
休憩時間のあとにみのりがなかなか戻ってこなくて、休憩終わりの時間を勘違いしているかも、と近くを探しに行くと、人気のない廃屋で泣いている彼女を見つけた。
舞台役者として大成したいというみのりにとって、スーツアクターの仕事は影武者のようでやりがいが見出せなかったらしい。さらに自分がスターリーピンクに抜擢された理由が、桃園メイ役に決まったキャストと背格好が似ているためであった、との事実に傷ついたようだ。
彼女はただの舞台女優にしておくにはもったいないほど動けるし、抜擢の理由だってスーツアクターとしてはプラスに受け取れることで、悲観する内容ではない。
それらを素直に伝えると、少し自信を取り戻してくれたらしい。
それから少しずつ彼女の周囲に対する態度が変わり始め、心の壁を取り払ってくれるようになったし、撮影中に笑顔を見せることも増えていった。
……そして俺は、ひたむきに仕事に打ち込み、周りと関係を作ろうと努力するみのりのことが、いつの間にか気になるようになってしまったのだ。
彼女への気持ちをはっきりと自覚したのは、秋にあった公開収録のとき。
みのりがまともに蹴りを喰らって倒れたのを見て、生きた心地がしなかった。
この仕事は常に危険ととなり合わせだ。一瞬の気のゆるみが、一生続く後遺症をもたらすことだって十分にあり得る。
思うよりも先に、身体が動いていた。
撮影の段取りのことも、スケジュールのこともその瞬間だけは完全にぶっ飛んでいて、呼びかけに答えない彼女を抱き上げ、監督に許可を取ったあと、アリーナ内にある救護室に連れて行った。
幸いみのりはそれほど時間を置かずに目覚めたけれど、意識の回復を待っている間、ずっと祈っていた。
――どうか、無事であってくれ。
――やっと少しずつ話ができるようになったのに。俺からこの人を奪わないでくれ。
彼女を失いたくない。その感情は、誰に確かめるまでもなく恋だった。
つい最近、そのとき彼女が気を散らしていた原因が俺にも関係があると知ってひどく驚いた。
恵里菜が俺を好きだとみのりに打ち明けていたのだ。そんなにも動揺するほど俺のことを想ってくれていたのかとうれしい反面、そのせいで彼女を危ない目に合わせてしまったのでは、と、申し訳ない気持ちにもなった。
俺たちの関係を知っているのは、今のところ共演していたスーツアクターのつぼっちさんと伊織くん、恵里菜だけだ。
伊織くんには「絶対そうだと思ってました!」と見抜かれていたようだし、つぼっちさんは「ふたりが結婚することになったら、俺、取材されるかな?」と斜め上の心配をしていた。
恵里菜には伝えるべきか悩んだけれど、付き合いも長いし、隠していることのほうが失礼な気がしたから、正直に話した。
『みのりちゃんって、素直だし可愛いししゅうくんの好きなタイプだなぁって思ったから、取られないように釘刺したんだけど……やっぱそういう卑怯なことしようとするとダメだよね。正直、今はまだ応援する気にはなれないけど、努力はするよ』
恵里菜はみのりの気持ちが俺に向いていることにいち早く気付いていたらしい。「同じ人を好きな女性のことはわかるものだよ」なんだそうだ。俺はまったく気が付かなかったのに。
みのりは俺を含め周囲の誰に対しても一線引いている感じがしていた。最初のほうは特に。
休憩時間もひとりでどこかへ消えてしまうし、撮影後に食事に誘ってもスケジュールを理由に断られ続けていた。誰とでも打ち解けやすく、すぐに懐を開いてしまいがちな俺としては、彼女とは適度な距離を保つようにと自戒するくらいだったのだ。
そんなみのりに対する印象が変わったのは、撮影が始まってしばらくして、廃工場で撮影があったとき。
休憩時間のあとにみのりがなかなか戻ってこなくて、休憩終わりの時間を勘違いしているかも、と近くを探しに行くと、人気のない廃屋で泣いている彼女を見つけた。
舞台役者として大成したいというみのりにとって、スーツアクターの仕事は影武者のようでやりがいが見出せなかったらしい。さらに自分がスターリーピンクに抜擢された理由が、桃園メイ役に決まったキャストと背格好が似ているためであった、との事実に傷ついたようだ。
彼女はただの舞台女優にしておくにはもったいないほど動けるし、抜擢の理由だってスーツアクターとしてはプラスに受け取れることで、悲観する内容ではない。
それらを素直に伝えると、少し自信を取り戻してくれたらしい。
それから少しずつ彼女の周囲に対する態度が変わり始め、心の壁を取り払ってくれるようになったし、撮影中に笑顔を見せることも増えていった。
……そして俺は、ひたむきに仕事に打ち込み、周りと関係を作ろうと努力するみのりのことが、いつの間にか気になるようになってしまったのだ。
彼女への気持ちをはっきりと自覚したのは、秋にあった公開収録のとき。
みのりがまともに蹴りを喰らって倒れたのを見て、生きた心地がしなかった。
この仕事は常に危険ととなり合わせだ。一瞬の気のゆるみが、一生続く後遺症をもたらすことだって十分にあり得る。
思うよりも先に、身体が動いていた。
撮影の段取りのことも、スケジュールのこともその瞬間だけは完全にぶっ飛んでいて、呼びかけに答えない彼女を抱き上げ、監督に許可を取ったあと、アリーナ内にある救護室に連れて行った。
幸いみのりはそれほど時間を置かずに目覚めたけれど、意識の回復を待っている間、ずっと祈っていた。
――どうか、無事であってくれ。
――やっと少しずつ話ができるようになったのに。俺からこの人を奪わないでくれ。
彼女を失いたくない。その感情は、誰に確かめるまでもなく恋だった。
つい最近、そのとき彼女が気を散らしていた原因が俺にも関係があると知ってひどく驚いた。
恵里菜が俺を好きだとみのりに打ち明けていたのだ。そんなにも動揺するほど俺のことを想ってくれていたのかとうれしい反面、そのせいで彼女を危ない目に合わせてしまったのでは、と、申し訳ない気持ちにもなった。