撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
 以降、みのりを心配するのを口実に、彼女と個人的に連絡を取るようになった。
 自分の好意が透けて見えすぎるのではとも思ったけれど、メッセージ上でも彼女と接する時間を持ちたい衝動には抗えなかった。
 みのり曰く「修哉さんは誰にでも優しいから。それくらいで気があるなんて思わないよ」と。……そういうものなのだろうか。

 クランクアップを機にお互いの気持ちを伝え合い、季節はもう彼女と出会って二回目の春。
 今日は『星河戦隊ファイブスター』のファンイベントの日だ。この番組枠では、毎回本放送が終わって少し経つと、変身前のメインキャストの面々を主体にそういった催しをすることが多い。
 今回は俺たちスーツアクターにもスポットを当ててくれるみたいだから、俺もみのりも、他のスーツアクターの三人も、とても楽しみにしている。

「シャワーありがとう」

 バスルームからみのりが戻ってくる。Tシャツ姿で、まだ濡れたままの長い髪が妙に色っぽい。

「みのり」
「うん?」
「可愛い」

 ベッドから起きて立ち上がると、俺は彼女の細い身体を抱き締めた。

「……しゅ、修哉さんも、いつもカッコいいよ」
「ありがとう。みのりに言われるのがいちばんうれしい」

 俺もストレートに愛情表現をするほうだけど、彼女も負けず劣らず、そんな風に思いを口にしてくれるのがうれしい。
 愛しさが募って、しっとりとしている彼女の前髪をそっと撫でた。
 みのりは俺にこうして頭を撫でられるのが好きだと言う。俺に触れられると、ドキドキするから、と。

「好きだよ」
「……私も好き。修哉さんが、大好き」

 もはや俺たちにとっては挨拶みたいな愛の言葉を交わしながら、俺の胸元に頬を擦りつけるみのりの前髪を、手櫛で梳くように撫でる。
 今日のイベントが終われば、いよいよ仕事では彼女とかかわる機会がなくなるだろう。俺も彼女も同じ役者ではあるけれど、活動しているフィールドは異なるのだから。
 たとえスターリーレッドのヒーロースーツを脱いだとしても、俺の両腕ですっぽり包めてしまう華奢な彼女を、これからも守っていけたら幸せだ。
 ――できれば、一生をかけて。
 密かにそう願いながら、シャンプーの香りがする彼女のつむじにキスを落としたのだった。
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