撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
 それでも私はスターリーピンクのスーツアクターを引き受けることにした。
 活躍がわかりにくいお仕事かもしれないけれど、選んでもらったからには一生懸命やろう。
 ――と、心に決めたのだけど、撮影に入るとそんな私のやる気を摘み取るような現実をいくつもつきつけられた。

 まずは撮影場所に関してだけど、山の中、川辺、廃屋など、都会から離れたアクセスの悪い場所ばかり。夏は暑いし冬は寒くて、体調管理が本当に大変だった。
 たまにスタジオでセットを組んで行うこともあったけれど、そういうときをラッキーと感じるほどだ。
 そして撮影のメンバー。スーツアクターは基本的に戦闘シーンにしか登場しないので、私たちの撮影は変身前のキャストとは別々に行うことになっている。
 変身前のキャストのなかにはすでに第一線で活躍している俳優さんも何名かいらっしゃったので、せめてためになるお話を聞きたかったのに、そういう機会にも未だに恵まれていない。
 新しい敵が出てくるたびに敵役のスーツは新調されるけれど、ほとんどの場合中身は同じ俳優さんが入っているから、撮影は常に代わり映えのしないメンバーで進行する。
 チームワークがよくなりそうと思う反面、私を含めみんなが無名俳優という状況にいまいちテンションが上がらず、必要最低限のコミュニケーションを取るに留めていた。

 早い話が、腐っていたのだ。桃園メイ役で合格していたなら、もっと誇らしい気持ちで仕事ができていたのに、と。
 ちなみに桃園メイ役は、人気急上昇中だという十代のグラビアアイドルが掻っ攫っていった。
 資料で彼女を見てみると、とびきり可愛いし美人だった。
 ああいう人じゃないとオーディションには通らないのかと思うと、なおさら心がささくれた。
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