撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
 ああ、でも――ひとりだけ、この人はすごいな、と思える人がいた。
 それがヤナさん。柳田修哉。
 二十七歳だという彼は、この『星河戦隊ファイブスター』の主役である『赤嶺連司』というキャラクターが変身する、スターリーレッドのスーツアクターだ。

 顔合わせで初めて彼を見たとき、シンプルにカッコいい人だな、と思った。
 こういう世界だからイケメンは見飽きているけど、彼の顔は彫りが深く、日本人離れしていてまるで彫刻みたいだと思った。
 日に焼けた健康的な肌の色も、ちょっと長めでパーマのかかった黒髪も、雰囲気にとても合っている。
 バランスよく筋肉のついた身体は、ヒーロースーツ越しでも逞しく感じるのにシルエットがきれいで、つい見とれてしまう。
 挨拶をしたときに、声も素敵だと知った。
 優しくて温かみのある声は耳心地がいい。スーツアクターだから声を発する機会はまずないけれど、それがもったいないと思うほどだ。
 主役だけあって、台本上、彼には様々なアクションが要求される。
 けれど、彼は複雑なそれらを難なくこなしたし、たとえ最初のテイクでアクション監督の好みに填まらず、新たな注文をつけられても、かならず応えてみせた。
 ヤナさんの動きはしなやかで、軽やかで、まるで風みたいだと思う。
 他のスーツアクターの演技とは一線を画しているのは、決して経験豊富とは言えない私の目から見ても明らかだった。
  ――この人、変身前のオーディションにも合格しそうなくらい素敵な容姿をしているのに、こんなにも華麗に動くことができるんだな。
  スタッフさんの話では、彼は昨年公開された特撮映画でも敵役のボスを熱演しており、今回のレッド役もぜひヤナさんを使いたいと監督自らが指名したのだとか。
 そちらの世界にうとい私が知らなかっただけで、業界では注目株のアクション俳優らしい。
 ヤナさんは気取るところがないし、スタッフ・キャストに分け隔てなく丁寧な対応をする人だから、ちっとも気が付かなかった。
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