撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
「ヤナさん……」
「そろそろ休憩終わるよ。どうしたの?」

 赤いヒーロースーツを着たヤナさんが、自身のヘルメットを抱えて立っていた。
 多分、戻ってこない私を探しに来てくれたのだろう。誰に頼まれるわけでもないのに、彼は率先してそういう役を買って出ることが多いから。
 廃屋のなかは薄暗いけれど、昼間だから私がどんな顔をしているかくらいはわかるはずだ。彼がくっきりした二重の目を大きく瞠ったのは、そのせいかもしれない。

「いえ、あの……何でもないです」
「何でもないって顔じゃないよ」

 咄嗟に両方の頬を拭ってごまかそうとしたけれど、さすがに無理があったようだ。

「……俺で力になれること?」

 ヤナさんは少し考えるような間のあと、控えめに訊ねた。

「みのりちゃんが放っておいてほしいって言うならそうする。監督にも上手く言っておくし。でも、誰かに話したほうがすっきりするなら聞くよ」

 何かと気が付くヤナさんは、私が彼らと距離を置きたがっていることにも気付いている。
 だから私に選ばせてくれたのだ。彼が立ち去るか否かを。
 直前のできごとで弱り切っている私は、優しい彼に少し寄りかかってみたいと思ってしまった。

「……実は、さっき」

 私はさっきテントの前で聞いたことと、それにショックを受けたことを、ヤナさんに打ち明けた。
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