撫でて、触れて ~ヒーロースーツの彼に恋する気持ちが止まりません~
「メインキャストではダメだったけど、殺陣を見込まれてこっちで選ばれたって思ったんです。でも違った。たまたま私がメインキャストさんと背格好が近かっただけっていうのが……つらすぎて」

 順を追って話すうちに少しずつ冷静になれたこともあり、涙は自然と止まっていた。
 今はただただ気持ちが重かった。まるで頭に灰色の雲が垂れこめているみたいだ。

「この仕事、背格好が近いってかなり重要なポイントだったりするんだけどね。変身前と変身後のシルエットに違和感があると、見てるほうはストーリーに没入しにくくなるから」

 彼は冷静にそう述べつつも、私のあまり納得していない表情を見たからか、「いや」と言葉を切って続けた。

「でも、みのりちゃんの気持ちも理解できるつもりだよ。……確かに殺陣が上手だなって思ってた。間合いの取り方とか、身のこなし方とか。どこかで習ってたの?」
「本格的には全然。劇団で時代劇が多くて殺陣の稽古が毎回あるくらいです。あと……昔体操を習っていて、身体の動かし方はそこで勉強した感じですかね」
「じゃあよほど筋がいいんだね」

 感心したように深いため息を吐いたヤナさん。

「すごいよ。選ばれたきっかけは背格好が似てるからかもしれないけど、しっかり爪痕残してると思う。だからショックだと思わなくていいんじゃないかな。オーディションで君を選んだ監督は見る目があるってだけの話で、悲しがる必要なんてないよ。君の力が優れているのは事実なんだから」
「……そう、ですかね」
「うん。撮ったV確認してるときもほれぼれするくらい、みのりちゃんの動きって無駄がなくてきれいだよ」
「…………」

 ヤナさんが瞳を細めるのを見て、それまで私の思考にかかっていた灰色の雲が散っていく。
 私って何て単純なんだろう。
 一目置いているヤナさんにそう言ってもらえただけで、「そうかもしれない」って気になってしまうんだから。
 ……そうか。きっかけは背格好が似ていたからだけど、だからといって私の力を認めてくれていないわけではないのかも。

「私が出てるシーンのV、チェックしてくれてるんですね」
「他の人がどんな風に動いてるか、役者として気になるでしょ。一緒のシーンならそばで見れるけど、そうじゃないときはV見せてもらうしかないし」
「そういえばヤナさん、スタッフさんから変身前のシーンのVとかまでチェックしてるって聞きましたけど、本当ですか?」
「そうだよ」

 私が訊ねると、ヤナさんがあっさりと頷く。
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