例え私が消えたとしても俺は君の隣にいると誓う
「そうですね……。まずは、根本的に偏った考え方を修正する必要があります」

「それはどうすれば、」

「精神科への定期的な通院が必要です。しかし……、」



そこで先生は言葉を止めた。

冬弥くんに向けていた視線を私に向ける。

そして再び質問される。



「綾瀬さん。最近はどんな楽しいことがありましたか?」

「……覚えていません」

「辛かったことはありますか?」

「……思い出せません」

「綾瀬さんは今、精神科の診察室にいます。どんな感覚ですか?」



どんな感覚って……。


変な夢を見ている感覚。

幽霊になったわけではないけれど、自分をどこからから傍観している感じ。

色褪せた世界の中にいると思う。


そう伝えると先生は頷き『最後の質問です』と言った。



「では、精神科に来て僕とこうやってお話していますが、なにを感じますか?」

「特になにも、感じません」

「……分かりました」



先生は先ほど看護師さんが持ってきてくれた紙を1枚、私に差し出す。

空いている片方の手でそっと受け取る。

冬弥くんも覗き込むようにその紙を見つめる。
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