短編集
彼の低い声に思わず背筋が冷たくなる。
と同時に思い出す。
まずい、今日は先生確か学校の周り巡回するって言ってた気が!
先生の前で現行犯は流石にまずいような ……
「まっ、待って!鬼川君」
「あっ?」
今にもまた喧嘩に行ってしまいそうな彼を私は止めようと声を掛けた。
「いっ、一旦落ち着こ!」
「いっ、今は喧嘩よりぷっ、プリントやらなきゃ!!」
怖くて震える口から必死に言葉を紡ぎ私は彼に抱きつく。
「何で止めようとすんだ」
彼は私のほうに怒りの矛先を向ける。
「だっ、だって……」
「鬼川君、今日は怪我してるから」
なんとか頭を回して出た私の答え。
その一言で彼の動きが止まる。
…… 良かった。
「喧嘩するなら傷が治ってからにしよ」
ホッと胸を撫で下ろして震える手で彼を抱き締める。