短編集
『これ似合うんじゃないかと思って』
そんな言葉と一緒に彼から渡された1本の口紅。
『わぁ、ありがとう』
その日は私の誕生日だった。
でも、この色はあんまり ……
上辺の言葉では感謝を述べながら全く好みではない色合いの口紅を彼から受け取る。
化粧品もサプライズで勝手に決めて渡されるより一緒に選んでくれたほうが嬉しいのに
『早速、つけてみてよ』
『うん、分かった。可愛い口紅だね。ありがとう』
心の我が儘な部分は塞いで私は都合のいい言葉の羅列だけを口にした。
きっとこの時から既に分かってたんだ。
彼とは全てが合わないからいつかこうなると。