短編集
何故かと誰かに問われれば彼を好きになった理由までことを遡ることになる。
そう、あれは数ヶ月前の出来事。
―― やばっ、ノート書き忘れた!
私は授業中うたた寝をし
ノートを書き忘れ、静かに慌て困っていると
『ノート…… 貸そうか?』
そんな声が隣から聞こえてきた。
突然の助け船に驚きつつ声のするほうへ顔を向けると
“彼”が居た。
「えっ」
えっと、…… 誰だっけ?
確か名前は……
そうだ、吉川君だ。そうだ。そうだ!
なんというかこの時の私は酷い女で数ヶ月隣に居たクラスメイトの名前さえ覚えていなかった。
申し訳ないが、数ヶ月の私にとって彼はその程度の存在だったのだ。