短編集
しばらく彼女は花が咲き乱れる庭園を歩き
一際大きな植木の側で彼女は大きく息を吐いた。
「はぁ、猫被るのも楽じゃないわ」
彼女は綺麗にとかれた髪をさっと後ろに払う。
あの男、自分の自慢話ばかりで本当に嫌になる。
あれが婚約者というのだから、これからが相当思いやられてしまう。
腰に手を当て彼女は考え込む。
それに、
静かに頭の中で記憶を反芻する。
『…… 私、許嫁が決まったの 』
『…… そう、ですか。おめでとうございます』
記憶の彼が苦々しく笑う。