スイーツは甘いだけじゃない
「お母さん……」

懐かしさに美緒の視界が涙でぼやける。渉が「食べれる?」と言いながらフォークにケーキをさし、美緒の口元に持っていく。美緒は恐る恐るそれを食べた。

「……おいしい……」

ポロリと美緒の頬を涙が伝う。数年ぶりに食べた甘いものは、美緒の心にじんわりと幸せを運んでくる。

「甘いってね、幸せを運んでくれる味なんだよ」

渉がそう微笑んで言った瞬間、美緒は恋に落ちた。



苦しい日々に寄り添ってくれた渉を好きだと気付いてから、美緒は悩みながらもバレンタインにガトーショコラを作って渉に告白をした。渉も、「僕も好きなんだ、美緒のこと」と言いながらチョコレートシフォンケーキを渡してくれて、二人の交際は始まったのだ。

渉とどこかへ出かけたり、一緒にスイーツを作ったり、キスをしたりハグをしたりする日々は、まるで砂糖菓子のように美緒を蕩けさせる。

「こんなに幸せになれるなんて、あの頃は思ってもみなかったな」
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