溺愛の檻から、逃げられない
「あ、すいません。今。」
何があちゃーなのか分からないが、
とりあえず食事を運ばなくては。
と言っても藍川さんはどこに。
見回してみても名札などはついていないので、わかるはずない。
助けを求めるように、淡い青色の袴を着た男性に視線を戻したが、
その人はすでに隣の人と話していた。
ホント、どうしようと思い立ち尽くしていた時だ。
「おい、ブス!!藍川は"俺"だ!」
苛ついた大きい声が、雷が鳴った時みたいに、どどっと私の体中に響いた。
ビクッと体が震えて、御盆の端を強く握る。
「すみません!」
声を荒げた''藍川"さんは鋭い目つきでこちらを睨みつけていた。
震える足でそちらに向かい、正座をして御盆をテーブルの上に置く。